2025年9月7日
スティーブ・ジョブズの部屋に生涯ずっと飾られたもの
スマートフォンの生みの親として知られる米Apple創業者のスティーブ・ジョブズ(Steve
Jobs /1955〜2011)。生前、彼が日本の美術に傾倒していたことをご存知でしょうか?明治
から昭和にかけて制作された「新版画」をこよなく愛した彼。その愛は相当なもので、新
製品の性能の高さを誇示するために、橋口五葉の「髪梳け流女」をプレゼン会場の巨大ス
クリーンにでかでかと映し出したほど。この記事ではジョブズが新版画を好んだ理由と、
高額で取引される理由について記載しています。ジョブズや川瀬巴水に興味のある方は、
ぜひご一読を。
■ジョブズが惚れ込んだ日本の新版画
我々のライフスタイルを一変させる製品を次々と生み出したスティーブ・ジョブズ。彼が
デジタルデバイスを開発する際、製品の外観やインターフェースのデザイン、フォント、
操作性に至るまでのあらゆる部分に「シンプルな美しさ」を執拗に追求したことはよく知
られています。ジョブズはいわゆるミニマリストで、部屋に余計なものを一切置きません
でした。1983年にジョン・スカリー(後のApple社社長)がジョブズ邸の寝室をのぞいた
際には、ベッドの他にわずか4つの物しか置いてなかったそうです。その4つというのがア
インシュタインの肖像、ガンジーの肖像、スタンド型のルームランプ、そして日本女性を
描いた一枚の木版画でした。
この木版画は明治後半から昭和初期につくられた「新版画」と呼ばれるもので、衰退して
いた江戸時代の浮世絵の復興を目指してリバイバルされたものです。伝統的な技法を継承
しつつも、洋画のエッセンスを取り入れるなどモダンなアプローチが随所に見られます。
ジョブズがとりわけ好んだのが川瀬巴水(1883〜1957)の作品で、幼少期に親友の家に飾
られているのを見て一目惚れして以来、56歳でこの世を去る間際までコレクションし続け
ました。ジョブズの娘さんによると、父親が亡くなった部屋には「寺院の黄昏を描いた川
瀬巴水の版画がかけられていた」とのことです。
川瀬巴⽔ ⻄伊⾖⽊負(にしいずきしょう)1937(昭和12)年
■DTP=新版画?
江戸時代の浮世絵は人気が高く、一枚一枚手で描いていたのでは生産がまったく追いつき
ませんでした。そこで取り入れられたのが版画の技法。元になる版をつくれば何枚も複製
できるこの技法のおかげで、浮世絵は日本を代表する一大文化に発展することができたの
です。そして大量生産を実現するために、絵を描く人(絵師)、絵を硬い木に貼りつけ彫
る人(彫師)、彫られた版木に顔料や墨を塗り和紙に刷る人(刷師)といった工程ごとに
職人を置き、分業による流れ作業のシステムが確立されました。
一方、明治以降にはじまった新版画では、生産効率よりも表現の豊かさが優先されました
。しかし、繊細で入り組んだ線や、今までになかった色合いを表現しようと思うと、既存
のやり方では限界があります。そこで絵師は、どんな版を組み合わせて、どの手順で刷っ
ていくのか、その工程をも自ら設計する必要があったのです。葛飾北斎の「凱風快晴」が
7回の刷りで完成したのに対し、新版画では30回以上刷らないと完成しないものも多くあ
ったそうです。
ジョブズは新版画の美しさの裏にあるこの複雑な工程を見抜き、「作家がすべての工程を
一貫して扱い、理想とする表現を形にしていく」という制作思想に感銘を受けたというの
です。それはなぜでしょうか。
当時、ジョブズがパーソナル・コンピューター(PC)の開発で実現したかったことの一つ
に「デスクトップパブリッシング(DTP)」があります。それまでのグラフィックデザイ
ンはデザイン制作から印刷までの工程それぞれに専門業者がいて、完全に分業化されてい
ました。江戸時代の浮世絵づくりと同じですね。しかし、DTPが実現すれば、すべての工
程を一台のPC上で行うことができます。つまり彼は「DTP=新版画」と捉えたわけです。
分業による制約をなくし、個人のイメージを思うまま形にできる環境をつくりたい。その
夢の先に、新版画のような美しい表現世界が待っている。シンプルな美とエレガンス、自
己表現の可能性。自らが追い求めるそれらの理想を、ジョブズは新版画に見出したのでし
ょう。
川瀬 巴水 江の島
■川瀬巴水作品が高額で取引される理由
ジョブズが愛した川瀬巴水は、高い写実性と鮮やかで深みのある色彩、洗練された構図を
用いて日本の景色を叙情的に描き出しました。国内はもとより、海外の愛好家たちからも
「昭和の広重」と高い評価を受けています。作品の美しさ、人気の高さに加えて、戦争や
震災により多くの作品が失われてしまったことから流通量も少なく、高額で取引されてい
る作家です。過去に当ギャラリーでも扱った経験がありますが、高額なものでは数百万円
の値がつくものもあります。もし、お手元にお持ちの方がいらっしゃいましたら、お気軽
にご相談ください。用いられた技法や作品の状態にもよりますが、可能な限り高額で買取
いたします。
■川瀬巴水もそれ以外も 骨董・アートの高価買取は北岡技芳堂へ
北岡技芳堂では骨董品の他にも絵画や茶道具、貴金属、趣味のコレクションなど、さまざ
まなジャンルの品物を買受しております。ここ名古屋の地で長年にわたり取引を重ねてき
た実績をベースに、多種多様なニーズに対応できる販売チャネルをもつため、あらゆる骨
董品の高価買取を実現しています。
ご実家の片付けや相続などの際、手持ちの骨董品について「どうしたら良いか分からない
」という方も多くいらっしゃると思います。どのような品物でも、どのようなことでも構
いません。私たち北岡技芳堂にお任せください。出張買取も実施しています。愛知県、三
重県、岐阜県、静岡県その他の県へも出張させて頂きます。まずは、お電話にてお気軽に
お問い合わせください。
記事監修:北岡淳(北岡技芳堂 代表)
初代である祖父が掛け軸の表具師を生業としており、幼い頃から美術品や骨董品に親しむ。その後京都で
の修行を経て、3代目として北岡技芳堂を継承。2006年に名古屋大須にギャラリーを構え、幅広い骨董品
や美術品を取り扱いながらその鑑定眼を磨いてきた
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