2025年5月14日
食籠は、単なる菓子器ではなく、もてなしの心を形にした茶道具である。 茶道具買取ブログ
茶道具「食籠(じきろう)」とは?
食籠とは、茶道において主に干菓子(ひがし)などを盛るための蓋付きの容器です。平安時代から室町時代にかけて、中国から伝来した工芸品が元になっており、本来は食物を入れるための器でした。茶の湯では、点前の中で客にお菓子を供する際に使用され、菓子器としての役割を担います。
十代飛来一閑 了々斎好食籠 八角菓子器
十代飛来一閑による了々斎好の食籠は、表千家九代・了々斎宗左の注文に応じて作られた、一閑張の妙技が冴える優品である。軽量ながら堅牢な造りを持つ一閑張は、茶道具としての機能美に富み、この食籠も干菓子器として実用に優れつつ、風雅な存在感を放っている。外観は簡素でありながらも、漆の艶と形の調和が品格を生み、了々斎が好んだ端正な趣が随所に感じられる。飛来家は代々、一閑張の名工として知られ、とりわけ十代は茶人との交流が深く、各家元の好みに応じた作を多く残している。本作も、了々斎の美意識――静謐、整然、そして簡素の中の格調――を如実に物語る道具の一つである。茶会においては、単なる菓子器を超えて、亭主の趣向と時節の演出を担う存在となる。茶の湯の場において、用の美と礼の心が交差する道具として、今なお高い評価を受けている。
名称と語源
「食籠」という言葉は、中国語の「食物を入れる蓋付きの籠形容器」に由来します。「籠」とは本来「かご」ですが、陶磁や漆器で作られたものも含め、広く蓋付き容器全般を指すようになりました。日本の茶道では、漢字の読みを「じきろう」と音読するのが一般的です。
木製漆塗 鶯宿梅蒔絵黒漆六角食籠 闇蒔絵 横から
木製漆塗 鶯宿梅蒔絵黒漆六角食籠 闇蒔絵 中
木製漆塗による「鶯宿梅蒔絵黒漆六角食籠」は、格調と風雅を兼ね備えた茶道具であり、六角形という珍しい器形により、ひときわ目を引く存在感を放っている。全体は黒漆で仕上げられ、しっとりとした深い艶が空間に静謐な気配をもたらす。そこに描かれた「鶯宿梅(おうしゅくばい)」の意匠は、梅の古木に鶯が宿る風景を象徴的に表し、長寿や春の訪れ、詩情を込めた図柄として古来より愛されてきた。蒔絵は「闇蒔絵(くらやみまきえ)」と称される手法で、光を抑えた金粉や銀粉を用い、あえて控えめな輝きの中に気品と奥行きを生み出している。そのため、華美に走ることなく、茶席における静かな存在感と高い格調を保っている。干菓子器としての役割にとどまらず、亭主の美意識と場の設えを象徴する名品といえる。
主な材質と種類
食籠は以下のような材質で作られます。
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陶磁器製:京焼、九谷焼、伊万里などが多く、絵付けや釉薬による美しさが特徴。
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漆器製:蒔絵や螺鈿などの加飾が施され、格調高い意匠が魅力。
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木地製・竹製:素朴な風情のあるものとして、利休好みのものに多い。
大きさは手のひらにのるほどの小型から、数人分の干菓子を盛れる中型までさまざまです。
永楽善五郎作 仁清写菊食籠 側面
永楽善五郎作 仁清写菊食籠 上から
永楽善五郎作の仁清写菊食籠は、京焼の名匠・仁清の優雅な作風を忠実に写した作品であり、華やかさと品格を兼ね備えた茶道具として高く評価されている。白い素地に繊細な筆致で描かれた菊の文様は、秋の風情を象徴し、茶席に季節の彩りと詩情を添える意匠である。菊は古来より長寿や高潔の象徴とされ、茶の湯においても格調高い文様として親しまれてきた。永楽家の陶技によって再現された仁清写の食籠は、単なる写しではなく、現代の感性と伝統の融合が生み出す洗練された美が宿る。釉薬のやわらかな光沢と彩色の落ち着いた調和は、客をもてなす茶の湯の精神と深く響き合い、茶席に静かな気品をもたらす。食籠としての実用性を保ちながら、道具としての存在そのものが、亭主の美意識と趣向を語るものである。
使い方と茶会での扱い
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食籠には干菓子(落雁・煎餅・金平糖など)を盛りつけ、茶席で点前の前に客へ出されます。
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蓋を少しずらして客前に置き、中の菓子を取りやすくするのが作法とされます。
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客は懐紙を使って菓子を取り、食籠の内側には触れないように配慮します。
歴史的背景と名物
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室町〜安土桃山時代にかけて、中国から伝来した南宋・元の青磁・白磁・漆器の食籠が茶人に珍重されました。
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千利休や小堀遠州らは、和製の素朴な食籠や竹製のものにも美を見出し、「侘び」の精神を反映した選定を行いました。
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江戸時代になると京焼など日本独自の意匠による華やかな食籠も登場し、諸流派によって用い方や好みが分かれました。
茶道において「食籠(じきろう)」を用いる流派は多くありますが、特に以下の四家元(千家十職を含む)および煎茶道の諸流派では、食籠の使い方や選定に独自の美意識や作法が見られます。
永楽和全 色絵古裂文食籠
永楽和全による色絵古裂文食籠は、京焼の伝統を継承しながらも独自の洗練を加えた、雅趣あふれる茶道具である。器表には「古裂文(こぎれもん)」と呼ばれる、名物裂や伝統織物を思わせる文様が色絵で巧みに表現され、まるで織物のような質感とリズム感を陶器の上に再現している。これは単なる装飾ではなく、茶の湯で重んじられる裂地文化への深い敬意と、千家ゆかりの道具組への精通を示す意匠である。永楽和全は、幕末から明治にかけて活躍した永楽家の名工であり、表千家や裏千家などの茶人たちと深く関わりを持ちながら、多くの好み物を手がけた。本作もまた、食籠としての実用性に加え、視覚的な楽しみと精神的な豊かさを備えており、茶席におけるもてなしの象徴として格調を添える逸品である。
主な茶道流派における食籠の使用と特徴
1. 表千家(おもてせんけ)
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表千家では、格調高い茶会で漆器や陶磁の食籠を用いることが多く、金蒔絵や仁清写しなどの品格ある意匠が選ばれる傾向があります。
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利休の侘びの精神を継承しつつも、やや重厚で端正な道具組みが特徴です。
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食籠も季節感を大切にし、名物写しや歴代宗匠好みのものがよく使われます。
2. 裏千家(うらせんけ)
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裏千家では、柔軟で開かれた道具選びが特色で、竹籠、木地物、陶磁器など多様な食籠が用いられます。
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若干「遊び心」が見えることもあり、手作り感のある素朴な品を用いて侘び寂びの精神を強調する場面もあります。
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表千家に比べ、日常性に寄せた演出を得意とする流派です。
3. 武者小路千家(むしゃこうじせんけ)
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三千家の中でも特に質実剛健で簡素な美を重視する傾向があり、竹籠や木地の素朴な食籠が好まれます。
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装飾的な意匠よりも、「用の美」を重んじ、自然素材を活かした食籠の選定が見られます。
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久田流や官休庵など武家茶道の影響もあるため、形式に厳しさがあり、道具に格を求める傾向があります。
4. 藪内流(やぶのうちりゅう)
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武家茶道の代表格のひとつであり、点前や道具の扱いが端正であることで知られます。
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食籠についても、塗物や金蒔絵など格式の高い器を使うことが多く、季節に合わせた細やかな取り合わせがなされます。
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古典を重視する流派のため、唐物写しや名物由来の意匠などが重んじられます。
補足:煎茶道における「食籠」
煎茶道諸流派(小川流、黄檗掬泉流、花月菴流など)
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煎茶道では、菓子器としての食籠が重視され、磁器製(青磁・白磁)、朱漆塗の器など、中国趣味を反映した意匠のものが用いられます。
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文人趣味が基本であるため、器形も詩的・文人的な意匠が好まれ、蓮や桃などの形を象った食籠も見られます。
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