2025年5月4日
水指とは茶室に最初に運び込まれる席中の主役 茶道具ブログ
水指(みずさし)とは
茶会で 湯を張る釜に差し水をし、茶碗・茶筅をすすぐ清水を蓄える 蓋付き容器で、茶室に最初に運び込まれるため “席中の主役” とも称されます。形・素材・意匠は「時代の美意識」を映す鑑賞道具でもあり、その変遷をたどると茶の湯史そのものが見えてきます。
古伊賀水指 破れ袋
伊賀焼は、桃山時代を代表するやきもののひとつであり、現在の三重県伊賀市周辺で焼かれた、釉薬を用いない焼締め陶器として知られます。本作は、左右に長方形の耳を備えた独特の造形で、正面には焼成中に灰が自然に溶け落ちて生じた、若草色のビードロ釉が厚く掛かり、静謐な趣をたたえています。背面は赤く締まり、器全体に窯変による灰や土の付着が見られ、自然の力による造形の妙を感じさせます。
焼成中に焼台へと底部が沈み込んだ痕跡が残り、歪みと大きな割れをともなう姿は、まさに侘びと荒々しさを内包した桃山陶の真髄を示しています。かつて武将茶人・古田織部(1543〜1615)が「今後これほどのものはない」と称賛したという書簡(※関東大震災で焼失)にも見られるように、並外れた存在感と造形美を誇る逸品です。
その籠形(かごがた)と称される大胆な姿は、当時の茶人たちの美意識を色濃く映し出しており、伊賀藤堂家に伝来した名品としても知られています。
1. 語源・起源
水指
水差釜へ“水を差す”器古記録では「水器」「雲屯(うんとん)」とも記載
皆具
釜・杓立・建水・水指の四点セット室町初期は皆具の水指が主流

純金台子皆具
尾張二代藩主・徳川光友の正室であり、三代将軍・徳川家光の娘である千代姫の婚礼に際して用意された、きらびやかな黄金の嫁入り道具。そのうち現存しているのは、茶道具十一点、香道具十点、調度品六点の計二十七点にのぼります。もとはさらに多数の品が揃えられていたと考えられています。
茶の湯の道具としては、重量三一四五グラムの釜、七〇二〇グラムの風炉をはじめ、台子・水指・建水・杓立・茶入・天目台・天目茶碗・棗・蓋置といった一式が揃っています。中でも台子と天目茶碗は、木胎に金の薄板を被せた構造で、他の器物は無垢の金、または薄板の貼り合わせによって仕立てられています。
2. 室町以前 ─ 曲物・桶の時代
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鎌倉~南北朝:茶は僧侶の薬用。水指は台所用の桶や椀を転用。
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室町前期:書院点前が整うと皆具が成立。木製曲物に黒漆を塗った手桶形が主流。
真塗手桶水指
総体を黒漆で塗り上げた手桶形の水指で、三本の脚を備え、割蓋を添える。胴には一条の紐飾りが巡らされ、瀟洒な意匠が際立つ。こうした真塗の手桶水指は、千利休の好みによるものと伝わる。添えられた包布には「維適園茶具ノ内 真手桶」と墨書されており、本作が宗徧流に親しんだ第八代佐賀藩主・鍋島治茂(1745〜1805)の所有であったことがうかがえる。のちに、第十代藩主・鍋島直正の手に渡り、彼が佐賀城下郊外に築いた別邸「神野御茶屋」にて用いられた。
3. 室町後期─「唐物」隆盛
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明との貿易で 青磁・鐡砂・砂張(さはり)銅器 など中国製品が珍重される。
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水指も 龍泉窯系青磁や銅胎 が “唐物水指” として席中の憧憬の的に。
※中国青磁は“格調高い真(しん)”の道具として千家でも珍重された。
青磁花卉文水指
日本において、翠緑の釉色を湛えたこの種の青磁は、一般に「天龍寺青磁」と称されます。広田不孤斎によって塗蓋が添えられ、平水指として用いられたことでも知られています。近年では、類似の作例が中国・龍泉窯系の楓洞岩窯址における発掘調査により確認されました。この窯は、明代において宮廷への貢納品を手がけていた官窯であったことが判明しており、天龍寺青磁の由緒を裏づける貴重な考古学的成果といえるでしょう。
4. 桃山~江戸初期 ─ わび茶と国焼の台頭
村田珠光
「わび」の萌芽種壺・芋煮桶など日用品を見立
武野紹鴎
侘びの深化、南蛮焼締・真塗手桶など渋い素材を採用
千利休
「用の美」信楽・伊賀・備前など国焼が主役に。耳付・釣瓶形が人気
※この時代、水指=大壺 という固定観念が崩れ、ひょうたん形・種壺形・桶形など自由な造形が生まれました。
耳付水指 銘 龍田川
焼締陶を代表する備前の水指。下膨れの胴に、上部は数段の鎬(しのぎ)をめぐらし、造形に緊張感をもたせた作りとなっている。左右には耳を添え、独特の均整美を備える。茶陶制作が最盛を極めた時期の逸品で、千利休所持の伝来を持つ。底部には「タツタカワ(ケラ判)」と利休自筆の漆書が認められ、由緒の確かさを今に伝えている。
5. 江戸中期~後期 ─ 装飾性と多様化
- 京焼・仁清・乾山
色絵や金彩で絵画的意匠を施した雅趣の水指が誕生。 - 小堀遠州・小堀宗実系
織部・志野など美濃焼を “きれい侘び” に取り込む。 - 小染付・祥瑞
景徳鎮への別注磁器が流行、文人画風の図柄が人気。 - 漆器水指
蒔絵師の高度な技と結びつき、真塗・根来・溜塗などが定番に。
色絵牡丹文水指 仁清
この水指は、肩に稜をもたせた棗形の轆轤成形によるもので、仁清が創出した独自の器形を示しています。器表には、腰まで細かな貫入を見せるなめらかな半失透の白釉が施され、その上に金・銀・赤・緑・黒による極めて精緻な上絵付がなされています。
装飾構図は中国陶磁の窓絵様式に倣いながらも、文様表現には巧みな和様化が見られ、胴部四方には格狭間形の窓絵内に、構図を変えた牡丹図が描かれています。窓絵内の土坡や霞は、金泥を切箔風に用いて表現され、地文に配された花菱文とあいまって、蒔絵の趣を思わせる華やかさと雅味が漂います。
6.近代 新素材水指( 明治~昭和)
ギヤマン製水指
1873年ウィーン万博を契機に切子技法が再評価され、夏席用に透け感を活かした平水指・升形水指が作られる。
現存例:耕三寺博物館所蔵「ギヤマン升形水指」(明治19世紀)
錫・黄銅・洋銀製 など金属の水指
京の錫師〈清課堂〉や金屋五良三郎系が明治後半~大正期に皆具用・置水指を制作。近年も黄銅皆具を特注制作
新素材化の背景
①万博出品を狙った各地工匠の素材実験
②富裕町民層の「涼趣」志向
③金属加工・型吹きガラス産業の成長
7. 現代 ─ 茶の湯と工芸の交差点
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人間国宝(中里無庵・金重陶陽・鈴木藏・荒川豊蔵・加藤唐九郎他)や若手陶芸家が伝統形を再解釈。
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夏季の透け感演出として 吹きガラス製水指 が茶席で定着。
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SDGs意識から 樹脂製・竹集成材 の軽量水指も登場。
中里無庵 朝鮮唐津耳付水指
紐作りによって成形され、内面には丹念に叩きを施している。器表の前後には、伸びやかに彫り出された草文が主題として配されており、その線の動きが器全体に生命感を与えている。形状はあえて正円を避け、柔らかな楕円形に仕上げ、両側には手捻りによる耳が付けられている。見込みと口縁付近には斑釉が掛けられ、背景に施された飴釉との対比が、深みのある景色を生み出している。器底には「無」の刻銘が入り、無庵の作であることを示している。
藤田喬平 手吹水指
東京美術学校工芸科で彫金を学んだ藤田喬平は、その後イタリアでガラス芸術に出会い、金箔と色ガラスを巧みに融合させた独自の表現世界を築いた。とりわけ「飾筥」に代表される作品群は、国内外で高く評価されている。
本作は、大胆に変形させた菱形の水指で、藤田ならではの革新性が光る。金箔を貼り込んだガラスを二重に重ねることで、重厚なガラス内部に奥行きと広がりをもたらし、見る角度によって表情が変化する。底部には「K.Fujita」の彫銘が刻まれており、作家の手による確かな証がある。
8. 形状・意匠による主な分類
真(しん)青磁桶形・御所丸形青磁・白磁・真塗
行(ぎょう)釣瓶・手桶・耳付・瓢箪国焼・砂張・根来
草(そう)種壺・芋桶・南蛮壺焼締・竹・籠・ガラス
※茶室の格式・季節・主題に応じて真⇄草を取り合わせることが“取り合わせの妙”
褐釉芋頭水指
芋頭(いもがしら)とは、肩から胴にかけて張り、底部に向かってすぼまる独特の器形を指し、その形状が里芋の頭部に似ることから名付けられました。中国・南宋時代の青磁芋頭水指を典拠とし、わが国の茶の湯においては唐物(からもの)水指の一つとして珍重されてきました。
本作は、鉄分を多く含む褐色の釉薬を全体に施したもので、「褐釉芋頭水指」と呼ばれます。焼成によって濃淡のある褐色が生まれ、器表に自然な景色を生じさせています。艶を抑えた鈍い光沢が、重厚でありながらも落ち着いた佇まいを与え、わびの趣を深く感じさせる作品です。
9. 歴史の流れ(年代早見)
鎌倉以前
桃山時代
江戸前期
江戸後期
明治~昭和
平成以降
10. 保存・取り扱いのポイント
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乾燥は必ず陰干し:釉薬貫入に水分が残るとカビの原因。
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漆蓋は別保管:温度差で木地が歪みやすいため箱の天蓋に挟む。
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夏ガラス/冬陶器 で茶席の季感を演出。
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古陶磁は“貫入の水留め” を毎年点検し、漏れ止めを補修。
市場相場
桃山国焼:数十から百~数千万円(伝世品・箱書付き)
仁清・乾山:装飾性と状態で200~800万円
近世漆器:真塗・蒔絵の保存状態が価格を左右
まとめ
水指は 「清めの水」と「時代の美意識」を同時に湛える器。曲物から青磁、国焼、漆、ガラスへと素材を変えながら、常に茶人の美学と工芸の最前線を映してきました。
歴史を踏まえ、季節・趣向に合わせて取り合わせることで、一碗の茶に込められた流れを感じ取ることができます。
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