2025年5月3日
茶道を引き立てる「棗」の魅力とは?種類や選び方についても解説 茶道具買取コラム2
茶道具の中で特に重要な役割を果たすのが棗(なつめ)です。棗は、抹茶を保存し入れておくための道具であるだけでなく、茶道の魅力を引き立ててくれる存在でもあります。
本コラムでは、棗の種類や選び方のポイントについて詳しく紹介します。
萩蒔絵螺鈿雪吹棗
艶を抑えた金地に、厚手の螺鈿を用いて萩の花を琳派風に描いた意匠が印象的な雪吹棗です。雪吹(ゆきぶき)とは、蓋・身ともに縁を面取りした独特の形状をもち、上下の区別がつかないことから「吹雪」に見立ててこの名が付きました。棗は抹茶(主に薄茶)を入れるための茶道具です。
本作は、底面に「光琳造」と堂々と蒔絵銘が記されていますが、通常このような銘がある場合、多くは尾形光琳の真作ではなく、光琳様式に倣った後年の作とされます。実際、同一意匠・同型の作品が1916年にロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館に収蔵されており、当時の「光琳リバイバル」ブームの中で制作された複数の優品のうちの一つと考えられます。
琳派の流麗な意匠と明治期の技術的精緻さが融合した、工芸史上でも注目に値する近代の名品です
棗(なつめ)とは何か
棗とは、抹茶を保管し、点前の際に用いられる茶道具のひとつです。丸みを帯びた優美な形が「なつめの実」に似ていることから、その名がつけられました。可憐でありながら気品を湛えたこの容器は、茶道の精神や美意識を象徴する存在として、多くの茶人や収集家を魅了してきました。
棗の起源と歴史的背景
棗のルーツは中国に遡り、抹茶文化の発祥地において茶の儀式で使用されていた容器が原型とされています。日本に茶の文化が伝来する過程で、棗は日本的な美意識と技術によって独自に発展し、茶道に欠かせない道具として位置づけられるようになりました。
特に室町時代以降、千利休が「わび」の思想を確立すると、棗の意匠はより質素で静謐な美へと変化します。この時代の棗は、実用性と美的価値を兼ね備えた道具として確立され、その影響は現代に至るまで続いています。
棗の用途と基本的な使い方
棗の主な機能は、抹茶の風味を損なわずに保存・供給することです。抹茶は空気や湿気に極めて弱いため、密閉性のある棗が用いられます。特に木製や漆器製の棗は、湿度の変化から中身を守り、点前の際にも手に馴染む仕上がりになっています。
使用時には、抹茶を棗に詰めた後、蓋をぴたりと閉め、茶杓(ちゃしゃく)を用いて適量を取り出すことで、効率よく抹茶を扱うことができます。
棗の代表的な形状と種類
棗にはいくつかの定番形がありますが、形状によって用途や美的印象が異なります。
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中棗(ちゅうなつめ)
標準的なサイズで、最も使用頻度が高い棗です。手に持ちやすく、抹茶の出し入れもスムーズで、稽古から正式な茶会まで幅広く使用されます。 -
小棗(しょうなつめ)
一回り小さなサイズで、携帯性に優れ、野点などの屋外茶会で重宝されます。可愛らしいサイズ感と意匠性が魅力で、贈答用としても人気があります。 -
平棗(ひらなつめ)
底が広く口が大きいため、抹茶が取り出しやすく、茶会においても見映えが良いため、濃茶席などで多用されます。
装飾や素材による棗のバリエーション
棗の価値を決める重要な要素には、使用素材や装飾技法があります。
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蒔絵(まきえ)
金粉や銀粉を漆に定着させる装飾法で、非常に高い芸術性を誇ります。豪華さが際立つ金蒔絵と、しっとりとした趣の銀蒔絵、それぞれに異なる美を湛えています。 -
檜(ひのき)製棗
香りが高く防虫・防湿性に優れる檜は、高級棗に使われる素材として知られています。木目の美しさと軽やかな質感が調和し、上品な仕上がりを演出します。 -
漆塗りの技術と産地
棗に施される漆塗りは、耐久性と美観を両立する重要な技法です。特に、輪島塗・津軽塗・会津塗・根来塗など、著名な産地の漆器は高く評価されています。それぞれに特色のある工程と意匠があり、選ぶ楽しみも尽きません。
棗を選ぶ際のポイント
良質な棗を選ぶためには、以下の観点を押さえておくと役立ちます。
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材質の種類と特性
木製は長年の使用で味が出る一方、陶器製は視覚的な美しさと装飾性に富んでいます。 -
塗装の質感と仕上がり
漆の艶感や蒔絵の精緻さは、棗の美的評価に直結します。特に金粉・銀粉の密度や配置に職人の技が宿ります。 -
装飾技法の独自性
彫刻や絵付けの意匠は作家の個性が反映される部分であり、稀少なモチーフや流派に基づいた意匠は評価が高まります。 -
保存状態
木製の棗は湿気に弱く、ヒビや割れに注意が必要です。全体をしっかりと確認してから購入することが大切です。 -
書付・共箱の有無
家元の花押が付された書付や共箱は、その棗の真正性と価値を高める重要な要素です。
棗の価格帯と評価基準
棗の価格は、数千円の実用的なものから、数十万円を超える高級品まで幅があります。職人の技術、使用されている素材、装飾の希少性が価格に大きく影響します。なかには、展覧会出品作や作家物の名品もあり、コレクションとしても非常に魅力的です。
名匠による棗の魅力
七代中村宗哲 秋草蒔絵黒中棗
千家十職の塗師で、伝統と革新を融合した棗を多数制作。
中村宗哲(なかむらそうてつ)は、江戸時代から続く千家十職の塗師(ぬし)家元で、茶道具の漆器制作を専門とします。初代は江戸中期に活躍し、千宗旦の時代から千家と関わりを深めました。代々「宗哲」を襲名し、蒔絵や塗りの技術を極め、茶道具に優雅さと格式を与えてきました。現在も高い評価を受ける名門漆工家です。
黒田辰秋 螺鈿大棗
人間国宝にも認定された漆芸作家で、螺鈿の棗が特に有名
黒田辰秋(くろだ たつあき、1904–1982)は、昭和を代表する木工芸家・漆芸家で、重要無形文化財保持者(人間国宝)にも認定されました。伝統技法に近代的な美意識を融合させ、モダンな意匠と力強い造形で知られます。京都を拠点に家具や茶道具など多彩な作品を制作しました。民藝運動とも関わりを持ち、近代工芸の発展に大きく貢献しました。
清瀬一光 住吉蒔絵 大棗
清瀬一光(きよせ いっこう、1922–2007)は、昭和から平成にかけて活躍した日本の蒔絵師で、現代漆芸を代表する作家の一人です。京都を拠点に活動し、琳派や大和絵の美意識を取り入れた華麗で繊細な蒔絵表現で知られました。とくに棗や香合など茶道具に優品が多く、茶人や数寄者から高く評価されています。色漆や螺鈿、金銀粉を駆使した装飾性豊かな作風が特徴です。伝統を尊重しながらも現代感覚を取り入れた作品群は、海外でも高く評価されています。文化功労者にも選ばれ、漆芸の地位向上に尽力しました。
前端雅峯 時代棗写 千鳥蒔絵平棗
前端雅峯(まえはた がほう)は、昭和〜平成期に活躍した蒔絵師で、雅趣に富んだ琳派風の意匠を得意としました。
伝統技法に加えて螺鈿や金銀粉を巧みに操り、茶道具や香合、棗などに品格ある装飾を施しました。
とりわけ雪吹棗などの作にみられる抑制された金地と自然主題の構成は高い評価を受けています。
東京を拠点に制作活動を行い、百貨店や個展での発表を通じて愛好家の支持を集めました。
作風は琳派・宗達・光琳の構図を現代感覚で再構築したものが多く、優雅で洗練された印象を与えます。
蒔絵師としてだけでなく、現代における茶道具美術の継承者の一人といえる存在です。
一后一兆 春秋 中棗
華麗な蒔絵の表現で知られ、輪島塗の第一人者。一后一兆(いちのうし いっちょう)は、江戸時代中期の蒔絵師で、加賀前田家お抱えの御用蒔絵師でした。高度な研出蒔絵と平蒔絵を駆使し、豪華かつ格調高い意匠を得意としました。特に重箱や硯箱などの調度品に優品が多く、金蒔絵の精緻な描写に優れています。「一后一派」の祖とされ、加賀蒔絵の伝統を確立した名匠です。
川端近左 笹蒔絵 中棗
蒔絵の名門、川端家の漆芸を継承する匠の技が光ります。川端近左(かわばた きんさ)は、京都の表千家御用の塗師(ぬし)家元で、茶道具漆工の名跡です。初代は江戸時代中期に活躍し、以降代々が表千家に仕え、点前道具や棚物の塗を手がけました。中でも棗や水指、風炉先屏風など、格式と品格を備えた道具に定評があります。現在も続く塗師家として、千家十職に名を連ねる伝統工芸の重鎮です。
棗の保管と手入れのコツ
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使用後の確認:抹茶の残りや汚れを丁寧に拭き取り、風通しの良い場所で保管。
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環境管理:高温多湿や直射日光は避け、乾燥剤入りの木箱などに収納するのが望ましい。
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日常の手入れ:洗剤は使用せず、乾いた柔らかい布で表面を軽く拭くのが基本です。
終わりに
棗は、実用品でありながらも美術工芸品としての側面を持つ奥深い茶道具です。その形、素材、装飾に宿る歴史や美学を知ることで、茶の湯の世界はより豊かに広がります。ぜひ、骨董市や専門店を訪れて、お気に入りの棗を探してみてください。
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