2025年9月24日
現代日本画に起きている異変 下重ななみ展
これまで当ギャラリーでは個展の企画・開催などを通じ、10年以上にわたり次代を担う作家たちの活動をご紹介してきました。しかしここ数年、特に日本画のカテゴリで異変が起きています。それが9月に個展を開催する下重ななみ氏を含めた、女性作家による美人画の流行です。
日本の独自カルチャー・美人画
日本画に明確な定義はありませんが、墨、岩絵具、膠(にかわ)、和紙、絹といった伝統的な素材を用いて描かれる絵画を指し、西洋画のような陰影や写実性を持たせず、筆による輪郭線で対象物を描く作風が一般的です。そして女性の容姿や所作の美しさを描く「美人画」のジャンルは西洋には見られず、日本独自に発展した文化です。
江戸時代の浮世絵であれば菱川師宣の「見返り美人図」、喜多川歌麿の「婦女人相十品」などが知られていますし、近代になるとみなさんご存知の竹久夢二、そして「西の松園、東の清方」と称される上村松園と鏑木清方、伊東深水などの画家も有名ですね。
数百年の歴史の中でも異例のブーム
終戦後に一時停滞しましたが、1990年代にやや盛り返しつつ、2010年代に入った頃から再び美人画ブームが本格的に復活します。しかし、どうやら過去のものと少し毛色が違うようなのです。江戸時代の昔から、美人画を描くのは男性作家と相場が決まっていましたが、現在は特に女性作家の活躍が目立つのです。もちろん池永康晟氏などの男性作家も活躍していますが、女性による美人画はこれまでにない魅力を持つことから注目を集めています。この潮流の中心的役割を担う作家の一人が、2025年9月に当ギャラリーで個展を開催する下重ななみ氏です。
男性が描く女性と、女性が描く女性の違い
歴史的に、美人画は男性が上手いとされてきました。歌舞伎の女形に見られるような、男性の目特有のフィルターを通した「女性の色気・美しさ」があるためだといわれています。女性作家であっても時に男性的な艶やかな表現を生み出すこともありますが、やはり男性が感じる「きれい」と女性が感じる「きれい」には違いがあり、この差異が作風に影響していることは間違いありません。また、女性作家の場合には、同じ女性同士だからこそよりリラックスした空気をつくりやすく、自然な表情を引き出したり、大胆なポーズを試みたりといったことが可能になる面もあるでしょう。従来とは異なる視点からの美人画が次々と登場し注目を集めているのには、こうした背景が関係していると考えられます。
ライフスタイルの変化にマッチ
一昔前は社長室や応接間に飾られるもの、つまり「来客をもてなすこと」が絵画の重要な役割だったのに対し、昨今はご近所付き合いが薄れ、冠婚葬祭も自宅ではなく外の施設で行うようになりました。こうしたライフスタイルの変化により自宅の間取りから応接間が消え、絵画は「誰かに見せるもの」から「より個人で楽しむもの」へと変化して行ったのです。格式を重んじた絵よりも、個人の感性に響く絵を飾りたい。時代とともに移ろうニーズに、下重氏の作風がマッチしているという見解は妥当ではないでしょうか。
下重ななみ氏の作品の魅力・特徴
在学中から個展を開くなど多くの人の注目を集めていた彼女。卒業後に本格的な作家活動をはじめ、これまでに横浜、東京、名古屋、大阪で個展を開催してきました。発表作品が次々と賞に輝くなど、近年特に評価が高まっている女性美人画家の一人です。展示作品は毎回完売となり、当ギャラリーでも多くのご希望をいただき抽選方式でのご案内となりました。
彼女の作品は女性の美を表層的になぞるのではなく、内面に潜む情念を描き、見る者に感情の揺れうごきを感じさせる繊細な表情・所作を特徴としています。ご本人によると何よりモデルとの良好な関係づくりを大切にしているそうで、彼女の自然体の人柄がモデルの魅力を引き出し、独自の世界観構築につながっているのかもしれません。筆致や色使い、構図づくりなどの技術的な成熟も目覚ましく、今後更なる表現力の深化が期待されています。
下重ななみ展 水庭の遊漁たち
9月24日(水)〜9月30日(火)10:00〜18:00
10:00〜18:00/会期中無休/最終日は15:00まで
※27日(土)28日(日)は、正午頃より作家が在廊いたします
※作品は抽選にて販売となります
詳細は当ギャラリーのwebサイト、またはお電話にてお気軽にお問い合わせください
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