2025年5月21日
釜とは、湯の沸き立つ景色を味わえる。 茶道具買取ブログ
茶の湯における「釜」は、主に鉄製で作られた湯沸かしの道具で、湯を沸かすこと自体が茶の湯の核心をなす行為であるため、極めて重要な位置づけを持っています。点前の所作の中心に「湯」があり、その湯をつくる「釜」は象徴的存在とも言えます。
松図真形釜芦屋 室町時代 15世紀 高さ19.6cm/口径15.5cm/胴径26.0cm
本作「松図真形釜(まつず しんなりがま)」は、室町時代15世紀に筑前国芦屋(現・福岡県遠賀郡)で鋳造された芦屋釜の名品である。芦屋は中世において、仏具や日用品などの金属器制作で知られた鋳物の一大産地であり、特に茶の湯に用いる釜は「芦屋釜」として高く評価された。
この釜は、釜形の基本とされる真形(しんなり)で、端正な姿を保ちながら、胴には松の意匠が鋳出されており、文様には古雅な風趣が漂う。鉄の地肌には経年の渋い味わいが見られ、室町時代の茶人や武家、寺院に珍重された理由もうかがえる。現在もなお、芦屋釜は「古釜の最高峰」と称され、茶道の中で格式を誇る存在として尊ばれている。
■ 釜の種類と特徴
釜はその形状・用途・季節・流派により様々な種類があります。
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真形釜(しんなりがま):最も基本的な形。胴が丸く、蓋が平ら。表千家・裏千家ともによく用いる。
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平釜(ひらがま):背が低く、口が広く、主に夏場に使用。
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肩衝釜(かたつきがま):肩の張った形。秋冬にふさわしいとされる。
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鬼面釜(きめんがま):鬼の顔が鋳出された耳をもつ。戦国武将に好まれた豪快な趣。
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姥口釜(うばぐちがま):口縁が内にすぼまる形。湯が冷めにくいため冬向け。
姥口釜 初代名越浄味 安土桃山時代 16世紀後半 蓋径12.2cm 口径12.7cm 最大径27.0cm 総高16.9cm
本作「姥口釜(うばぐちがま)」は、安土桃山時代後期に活躍した名工・初代名越浄味による鉄釜である。名越家は京都の釜師の名門であり、千利休の茶道革新期に呼応して多くの名釜を生み出したことで知られる。
「姥口」とは、その名のとおり口縁が内側にすぼまった独特の形状を指し、湯が冷めにくく保温性に優れることから、寒冷な季節の茶席で特に好まれた形式である。加えて、その造形が「姥(老女)の口元」に喩えられるように、柔和で品のある佇まいを備えており、侘び寂びの美意識とも深く共鳴する。
鋳肌には細やかな槌目が現れ、釜全体に古雅な趣が漂う。釜蓋との接合も精緻で、名越浄味の高度な鋳造技術がうかがえる。利休以後の茶の湯が形式を整え、精神性を深めてゆく時代に生まれた本作は、茶釜の一様式を確立する存在として、今なお高く評価されている。
■ 釜と風炉・炉の関係
釜は**風炉(ふろ)や炉(ろ)**とセットで使われます。
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風炉釜:春から夏(5月~10月)に使う、独立した金属製の風炉にのせる釜。
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炉釜:秋から冬(11月~4月)に使う、床に切られた炉に据える釜。
これにより、季節感や茶席の趣が演出されます。
素文真形釜および唐銅鬼面鐶付欄干風鑪
(釜)江戸時代前期・17世紀|鉄・鋳造
(風炉)安土桃山時代・16世紀|銅・鋳造
(釜)蓋径9.0–9.2cm/口径9.1cm/最大径17.2cm/総高12.3cm
(風炉)口径16.6cm/最大径27.0cm/総高16.0cm
本作は、江戸時代前期に鋳造された素文真形釜(すもん しんなり がま)と、それに組み合わされた安土桃山時代製の唐銅鬼面鐶付欄干風炉(からかね きめん かんつき らんかん ふろ)からなる、風炉点前用の一具である。
釜は、装飾を一切排した「素文(すもん)」と呼ばれる無地の意匠で、釜形の基本とされる真形(しんなり)を採用している。簡素ながらも気品のある造形は、江戸初期の茶の湯において重視された静けさと調和を体現しており、点前における精神性を引き立てる。
これに対する風炉は、桃山時代特有の力強い意匠を示す「鬼面鐶付(きめんかんつき)」であり、胴に鋳出された鬼面に鐶(かん)を掛ける様式をとる。さらに、胴部の上縁には欄干風の透かしが施され、床の間の建築意匠との美的連続性を意識した構成となっている。銅地には経年の落ち着いた古色が宿り、時代の風格がにじむ。
異なる時代に制作された釜と風炉でありながら、見事な調和を見せる本作は、茶の湯における道具組の妙を示す優品である。道具の格と季節感、席中の趣を一体で表現する茶道の世界観が、静かに凝縮された取り合わせである。
■ 名物釜と釜師
名物として伝わる釜や、それを制作する**釜師(かまし)**にも重い伝統があります。
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芦屋釜(あしやがま):室町時代、芦屋(福岡)で作られた名釜。重厚で名品が多い。
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天命釜(てんめいがま):利休好みの釜として著名。
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釜師・角谷一圭(かくたに いっけい):近代の名釜師のひとり。
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大西家:室町以来続く表千家御用達の釜師家元。
天命霰釜 下野国佐野庄天命(現・栃木県佐野市)桃山時代16〜17世紀
本作「天命霰釜(てんみょう あられがま)」は、桃山時代に下野国佐野庄天命(現在の栃木県佐野市)で製作された、いわゆる天命釜の代表的な一作である。天命釜は、芦屋釜のような精緻な地紋を特徴とする意匠とは対照的に、素朴で荒々しい鋳肌を美とする、侘びの感性に重きを置いた釜として知られる。
本品では、全体に鋳出された霰(あられ)文様が釜肌に豊かな凹凸を生み、光と陰影の調和によって、静かで力強い存在感を示している。蓋を支える鍔部も厚く力強く造られており、用の美を体現している点が見逃せない。
鐶付(かんつき)は松笠形で、これは桃山時代以降に広まった形式であり、釜全体の造形とも呼応する。全体の丸みを帯びた形は、松ぼっくりや**芋頭(いもがしら)**を思わせ、小振りながらも印象的な量感と、素朴な力強さを備えている。
羽落ち(釜蓋の縁の精度)にも優れ、天命釜特有の慎ましさと緊張感を備えた一作であり、侘び茶の美意識を象徴する道具として高く評価されている。
■ 茶の湯における精神的な意味
釜は単なる道具以上に、「湯の音を聴く」「湯の沸き立つ景色を味わう」など、侘び寂びを象徴する存在とされます。たとえば、湯が沸く際の音(松風と呼ばれる)もまた、茶席の重要な演出のひとつです。
角谷莎村 柳文筒釜(風炉用)明治44年(1911)〜昭和62年(1987)
本作は、近代釜師の名門・角谷家の作家である角谷莎村(すけむら)による風炉用の筒釜である。莎村は人間国宝・角谷一圭の実弟にあたり、その技術と美意識を共有しつつも、独自の柔らかな表現で知られる作家である。
釜の胴部には、風にたなびく柳の枝が繊細に鋳出されており、柔和な景色が鉄肌に流れるように表現されている。柳は古来より風情としなやかさを象徴するモチーフであり、莎村の高度な鋳技によって、その生命感が見事に表現されている。
蓋の摘みは独楽(こま)型を採用しており、造形の中に遊び心と品格を兼ね備えている。鐶付(かんつき)は鉦鼓(しょうこ)**を模した造形で、雅楽に用いられる古典楽器を写した意匠が、茶の湯における静けさと音の世界を象徴的に示している点も興味深い。
寸法は、口径9.6cm、胴径16.8cm(耳含まず)、高さ約20cm(蓋摘み含む)、釜鐶径8cm。風炉用の釜として設計され、未使用品で保存状態も極めて良好である。
角谷一門ならではの確かな技術と美意識が息づく一品であり、茶席を優美に引き立てるとともに、現代金工芸史においても価値ある作品である。
古浄元(六代 大西浄元)作 瓢形釜 江戸時代中期1689年〜1762年 鐶付:栄螺形
本作は、江戸中期の名釜師・**古浄元(こじょうげん)**による「瓢形釜」である。古浄元は、京都三条釜座の釜師・大西家の六代目であり、四代浄頓の子として生まれ、名を重義、通称を清右衛門と称し、「浄元」と号した。のちに九代が同じ号を継いだため、特に六代目を「古浄元」と呼び区別されている。
本釜は、やわらかく膨らんだ瓢箪(ひさご)を模した優美な造形が特長で、曲線の妙が茶席に洒脱な印象をもたらす。鐶付には螺旋状の栄螺(さざえ)形を用い、細部に至るまで遊び心と技巧が宿る意匠となっている。
胴部の下方には、鋳造時に生じた割れ目が確認されるが、これは製作上のものであり使用に支障はなく、漏れ等も見られない。むしろ鋳肌の景色として趣を添えているとも言える。
古浄元は、表千家七代・如心斎の好みに応じて「鶴首釜」や「雷声釜」などの名品を制作し、また、西村道爺の没後には千家の御用釜師として本格的に出入りするようになった。そうした背景を持つ本作には、表千家十四代・即中斎宗匠の箱書きが添えられており、その由緒と格を今に伝えている。
雅味と実用性を兼ね備えた本作は、侘びの精神を宿す茶の湯の中で、格調高い席にもふさわしい逸品である。
■ 結びに
釜は、茶の湯における湯の音・湯の景色・湯の心を象徴する、まさに茶道の核心を成す道具のひとつです。時代や流派によって様々な意匠が生まれ、それぞれに込められた精神や美意識が、茶席の空気を静かに支えています。
北岡技芳堂では、時代物の茶釜から現代釜師による作品まで、幅広く茶道具の釜を買取しております。大西家・角谷家・名越家などの名工の作や、芦屋釜・天命釜・天明釜などの古釜も高く評価いたします。ご売却をお考えの際は、ぜひ一度ご相談ください。一点から丁寧に査定し、確かな目で誠実に対応いたします。
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