2025年5月9日
向付は、懐石料理(茶懐石)において用いられる器の一つ 茶道具買取ブログ
「向付(むこうづけ)」は、懐石料理(茶懐石)において用いられる器の一つであり、茶道具の中でも料理に供される食器として重要な役割を担います。
以下では、「向付」の基本的な意味、形状や種類、茶道での位置づけについて詳しく解説します。
織部切落向付
【1】向付とは何か?
「向付」は、茶懐石で最初に出される料理(多くは刺身や酢の物、またはそれに準ずるもの)を盛るための器です。元々は客の「向かい側に置く器」という意味で「向付」と呼ばれます。
茶席では、正式な膳組み(膳+汁+飯)に続いて出される最初の副菜として供されるため、料理内容だけでなく器そのものも重要な演出要素となります。
【2】向付の形状と素材
向付にはさまざまな形や材質があり、季節感や茶会の趣旨に応じて選ばれます。以下は代表的な種類です。
● 形状
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平鉢型:刺身などを平たく美しく盛るための典型的な形。
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小皿型・角皿型:織部焼などに多く、斬新なデザインが多い。
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高台付(こうだいつき)型:高足のようになっており、格調高い印象を与える。
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変形型:扇形、葉形、魚形など趣向を凝らしたものも多く見られる。
● 素材
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陶器・磁器:織部焼、志野焼、古伊万里、九谷など。
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漆器:格の高い茶事や冬季の茶会などで用いられる。
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木製や竹製:素朴さを演出したいときに選ばれる。
志野向付 桃山時代 17世紀 元屋敷東窯出土
本作は、ロクロで成形した素地を四方形に整えた平向付である。底部には三箇所に半環状の足を貼り付け、安定感のある造形を見せている。内面の見込みには、鉄絵で大きく樹木が描かれ、外面には文様を帯状に配置。対向する二面には間道文(縦縞文)、もう二面には上部に斜綿、下部に列点を配した構成となっており、外周に巡らされたこの幾何学的な意匠が本作の大きな特徴となっている。
全面に施された長石釉が柔らかな景色をつくり、焼成も良好で、鉄絵の発色は深みをもって際立っている。内面には円錐状のピン跡が四箇所、外底には大豆ほどのトチ跡が五箇所確認でき、当時の焼成技法を物語る重要な痕跡である。
同様の文様構成は、元屋敷束1号窯の最も新しい製品群にも見られることから、本作もその終末期に位置づけられる優品と考えられる。
【3】向付の茶道具としての位置づけ
向付は、茶事における料理のもてなしの心を表す重要な道具です。特に以下のような点で茶道具の一部とみなされます。
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料理を盛るだけでなく、季節や趣向を伝える演出効果がある
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名品の古向付(古伊万里、古九谷など)は茶人によって道具扱いされ、床の間に飾られることもある
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茶碗や棗と同じように、銘が与えられることもある
御深井釉向付 江戸時代 17世紀 5客
本作は、羽状複葉の葉を模した繊細な意匠をもつ向付で、型打ちによる成形によって薄手に仕上げられている。葉の中心には粘土紐を用いて葉柄をあしらい、底部には円錐状の三足を配して安定性と立体感を持たせている。
器面全体には、淡く柔らかな黄緑色を呈する御深井釉が施され、焼成も極めて良好。釉は見込みや外面底部に自然にたまり、美しい釉溜まりを生み出している。三足の周辺には焼成用ピンによる円錐状の痕跡が残るが、見込みには重ね焼きの跡が見られず、丁寧な焼成工程がうかがえる。
このような洗練された形状と柔和な発色を併せ持つ御深井釉作品は、織部様式が衰退し、器形に新たな変化が見られはじめた寛永年間(1624〜1644年)頃の窯業を象徴する優品である。
【4】代表的な向付の名品と流派による扱い
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表千家・裏千家など千家流派では、懐石の演出として向付の器にこだわりを見せる傾向があり、歴代家元が好んだ器が伝来品として残されています。
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金森宗和流(宗和好み)**の中には、絵付の美しい向付や色絵陶器を用いた例が多く、茶事の華やかさを表現します。
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大名茶人(細川三斎や小堀遠州)**は、中国陶磁や古伊万里の逸品を向付として用いた記録も残っています。
【5】向付と懐石の美意識
向付は単なる料理皿ではなく、茶事における「一期一会」の精神を伝える器です。料理を「どのように」「どんな器で」「どんな意図で」出すかによって、亭主の感性が伝わります。向付はその第一歩を担うため、慎重に選ばれるべき茶道具と言えるでしょう。
古染付寄向付 明時代・17世紀 中国・景徳鎮窯
本作は、明末期に景徳鎮の民窯で焼成された古染付の向付で、いずれも日本の懐石文化に応えるべく制作されたと見られる。兎、魚、琵琶、貝、筍といった吉祥や風雅を感じさせる題材がそれぞれの皿の形としてあらわされ、いずれも型成形による精緻な作りとなっている。
底面にはしっかりとした足が設けられており、器高を持たせることで卓上に立体感を生み出している点も、日本的な配膳美に配慮した設計といえる。呉須による文様は素朴でありながら洒脱な筆致を見せ、器形と一体となって遊び心と上品さを同時に漂わせる。
寄せ向付として十種十様の意匠が揃う本組は、明末民窯の自由な気風と、日本の茶懐石が求めた趣向性とが見事に結実した佳品である。
向付の種類
【1】形状による分類
平向付(ひらむこうづけ)
口が広く浅い形。刺身や酢の物に多用される。
深向付(ふかむこうづけ)
鉢状でやや深さがある。汁気のある料理や季節の煮物に。
高台向付(こうだいむこうづけ)
高台のある、卓上で目を引く形。格調高い茶事に好まれる。
変形向付(へんけいむこうずけ)
葉形・貝形・舟形・六角形など。意匠を凝らした季節感の演出に。
蓋付向付(ふたつき)
蓋が付いた器で、温度の保持や香りの演出に。冬の茶事などに多い。
乾山色絵竜田川図向付 江戸時代 18世紀|尾形乾山作
本作は、風雅な和歌の世界を陶に写したかのような、乾山様式の向付である。器形は型打ちによって成形され、高台は別作りの貼り付け式。素地には白泥を刷毛で塗り、その上から銹絵で流麗な流水文を描出。さらに半透明の釉を掛けて本焼きし、焼成後に上絵で色彩を加えるという、乾山独特の多工程を経て仕上げられている。
上絵では、流れる川面に舞い落ちる紅葉が赤・黄・緑の三色で描かれ、その縁には金彩が施されており、竜田川の秋景を詩情豊かに表現している。十客すべての高台内には、角枠に囲まれた「乾山」銘が銹絵で記されているが、筆跡には差異があり、絵具の発色や白泥の塗布範囲にも個体差が見られることから、複数の工人による乾山工房の制作と考えられている。
この手の向付は、一般に乾山が京に移り住んだ二条丁子屋町時代(1712年以降)の作とされるが、鳴滝窯跡から同様の型物が出土しているとの指摘もあり、制作時期の確定はなお議論の余地がある。十客のうち二客には、高台畳付に窯道具が付着したまま残っており、当時の焼成の様相を今に伝える貴重な資料でもある。
【2】素材・技法による分類
陶器製向付
備前、志野、織部、美濃など。 温かみと素朴さを演出する。
磁器製向付
古伊万里、鍋島、九谷など。 華やかで格調高く、正客用などに最適。
漆器製向付
木製に漆を施したもの。冬の茶事に用いられ、格が高い。
ガラス製向付
近現代の懐石で夏に多用。 透明感が涼を誘う。
竹・木製向付
竹筒や木鉢など。 新春や秋の野趣ある茶事に向く。
【3】主な焼き物・産地による分類(代表的な茶人好みも含む)
織部焼
緑釉や幾何学模様。変形皿や角皿が多く、前衛的。古田織部
志野焼
柔らかい白地と鉄絵。あたたかみのある風合い。古田織部、利休以降
伊万里焼(古伊万里)
色絵や染付が美麗。磁器として高級感がある。小堀遠州、宗和
九谷焼
鮮やかな色絵。絵画的な表現が豊か。金森宗和
備前焼
無釉の焼締め。土味を生かした野趣に富む。利休、遠州
信楽焼
粗い土と灰釉の素朴さ。秋冬の茶事に好まれる。千宗旦
京焼(清水焼)
洗練された意匠。茶人や公家に好まれた。表千家・裏千家系統
【4】向付の選び方の例(季節や趣向に応じて)
春
桜型・貝形・桃の形の陶器向付新春の華やぎや芽吹きの季節感を表す
夏
ガラス・白磁の平向付涼を感じさせ、清潔感を演出
秋
黄瀬戸や志野の温かみある陶器落ち着いた趣と季節感の演出
冬
蓋付き漆器・備前の重厚な器保温と格式、暖かみの演出
まとめ
向付は、単なる器ではなく**「料理の姿」と「亭主の心」を映す鏡**とも言える存在です。形状・材質・産地・意匠に込められた意味を理解することで、茶事全体の趣向や客人への配慮がより深まります。
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