2025年5月5日
香合とは亭主の美意識を象徴する。 茶道具ブログ
茶道具における「香合(こうごう)」とは、香(こう)を入れるための容器であり、主に茶席で香を焚く際に用いられる道具です。
形式や素材、使われる季節や流派によって多様な種類がありますが、その存在は単なる容器にとどまらず、茶席の趣向や季節感、亭主の美意識を象徴する存在でもあります。
古染付台布袋香合
古染付とは、中国・明代末期の天啓年間(1621〜1627)に、景徳鎮の民窯で日本向けに特別に焼かれた磁器を指します。本作は、そうした古染付の中でも「染付形物香合」の一例にあたる香合で、「形物香合番付」においては西方三段目の筆頭に位置づけられています。器形は四方形で脚付き、蓋の摘みにあしらわれたのは、月を見上げる姿で坐す布袋尊。遊び心と写実性が融合した意匠が、見る者に微笑を誘います。
■ 香合の基本的な役割
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用途:抹香(まっこう)や練香(ねりこう)、刻み香などの香を入れて、炉や風炉で焚く際に用います。
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位置付け:香合は、炭点前における重要な茶道具のひとつで、「香をたく=場を清める」という意味合いを持ち、精神的・儀式的な意味も伴います。
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扱い:客前での取り扱いがあるため、外見の美しさや風情が重視されます。
■ 香合の主な分類
使用時期
「炉用香合」(11月〜4月)
「風炉用香合」(5月〜10月)
に分かれます。炉用は陶磁器が多く、風炉用は木製や漆器が多い傾向。
牡丹堆朱香合
明時代に作られた堆朱の香合で、器面一面に牡丹の文様が力強く彫り出されています。堆朱(ついしゅ)は、幾重にも漆を塗り重ねて厚みを出し、そこに彫刻を施す中国伝統の漆芸技法であり、明代にはとりわけ技術が高まり、豪華で緻密な意匠が数多く生み出されました。本作も、厚く塗られた朱漆の層に深い彫りが施され、花弁や葉の一つひとつに豊かな陰影が宿ります。牡丹は富貴や繁栄の象徴とされ、吉祥文様として尊ばれており、その華やかさは香合という小品の中にも格式と気品を宿らせています。
素材
陶器(楽焼・志野_織部・瀬戸・唐津など)、磁器(染付・伊万里など)、木製、漆器、竹、金属(銀・銅)など多種多様。
形状
丸形・角形・動物や草花を模した造形などもあり、季節や行事に合わせて選ばれます。
流派
利休形(利休好み)、遠州形(小堀遠州好み)など茶人による好みの型が伝わるものもあります。
青織部香合
窯跡から蓋と身が溶着した状態で出土した、きわめて稀少な資料である。香合の身・蓋はともに轆轤成形によって作られ、成形後に指とヘラを用いて意図的に変形を加えている。施釉および加飾は、蓋を被せた状態で一体の器として施された。蓋と身の接合部には横方向の沈線が彫られ、その間に「二木一単位」の沈線文様が三か所施されている。
装飾的な特長として、一方の面には銅緑釉が掛け流され、対照的に釉の掛かっていない部分には鉄絵で列点や枡形文が描かれている。その上から、長石を含む透明釉を部分的に掛け分けることで、色調と質感のコントラストが際立つ仕上がりとなっている。高台裏には輪トチによる焼成痕が明瞭に残っており、製作当時の焼成方法を今に伝えている。
■香合の茶道における意味
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空間の清浄化と精神の整え
香を焚く行為は、場を清め、客と亭主の精神を一つにする儀礼的な意味を持ちます。 -
もてなしの象徴
香合の選定一つで、亭主の季節感覚や美意識が伝わるため、「見立て」の妙が問われます。 -
飾り物としての美的価値
茶会では炭点前で使用されるほか、床の間などに飾り香合として置かれる場合もあり、茶会全体の趣向を演出します。
十代黒田正玄造 了々斎好 竹朏(たけみかづき)香合
表千家九代、了々斎のお好みの形です。側面には摺漆を施しています。使用素材は胡麻竹です。表千家十一代・碌々斎瑞翁宗左箱書きは、天保八年(1837)に生まれ、明治四十三年(1910)一月七日に七十四歳で没しました。幼名は与太郎、名は宗員・宗左・宗旦。号に碧雲軒・碌々斎・瑞翁を用いました。十九歳のとき、先代・十代表千家 吸江斎祥翁宗左(1818–1860)より家督を継承しました。
■ 香合と香道の違い
茶道における香合は、あくまで「茶の湯における香をたくための道具」であり、香道で用いられる香炉や聞香具とは異なります。
香道は香そのものを鑑賞の対象としますが、茶道では香は空間を整える手段であり、脇役的な位置付けです。
色絵うんすんかるた香合
江戸時代に制作されたと見られる、色絵陶器の香合。蓋表には「うんすんかるた(うんかる・すんかる)」と呼ばれる南蛮渡来のカルタを意匠化した絵札文様が描かれており、異国趣味と遊戯性を備えた華やかな意匠が特徴です。形状は小振りで、香を納める器として抹茶席に用いられるものですが、装飾性が高く、観賞用としても珍重されます。
■流派別の香合の使い分け
流派によって香合の扱いや選定に違いがあります。以下、代表的な流派ごとの特徴をまとめます。
表千家利休形を基調とした簡素で格調高いもの楽焼、志野、瀬戸などの伝統的焼物を重視
裏千家表千家よりやや柔軟で装飾的傾向も動物形や漆器なども多用、季節感重視
武者小路千家素朴で自然味のある道具を好む木地や竹、民芸的要素のある香合も選定
久田家(久田流)武家風の端正な道具組み堅実で品格ある香合を用いる傾向
遠州流小堀遠州好みの優雅で洗練された意匠漆器や螺鈿、京焼など華やかで意匠的なものが多い
籬菊蒔絵香合(鏡箱)まがきにきくまきえこうごう/南北朝~室町時代(14~15世紀)
本作は、黒漆塗に濃梨地を施した円形の鏡箱で、甲盛りの蓋に錫縁を備え、随所に高度な蒔絵技法が凝らされています。蓋表には籬(まがき)に寄り添うように菊の株が意匠され、花は単弁・複弁が描き分けられるほか、正面と背面の向きを変えた花、蕾、葉の構成が緻密に描写され、金高蒔絵によって立体的に表現されています。蓋裏には菊の折枝三つを研出蒔絵であらわし、内部の見込みには宝珠・鍵・宝袋・丁字・小槌といった宝尽文が織られた江戸時代の唐織裂が貼られ、さらに底部にも菊の折枝が優雅な研出蒔絵で飾られています。
籬に菊を主題とした蒔絵といえば、鎌倉時代の名品・国宝「籬菊蒔絵硯箱」(鶴岡八幡宮蔵)を想起させます。また、かつてその硯箱と対を成していたとされる手箱――明治6年(1873)のウィーン万国博覧会に出品され、帰国の途上に伊豆沖で沈没した輸送船と共に失われた――の存在も思い起こされます。今回の鏡箱も、その一具である香合もしくは内容品であったことが強く推測され、室町蒔絵の到達点を示す一品として極めて貴重です。
■香合の拝見と取り扱い作法
茶席で香合を拝見する際には、特有の礼儀があります。
拝見が行われる場面
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炭点前の後(初炭・後炭いずれも)
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香が焚かれた後、亭主から「拝見どうぞ」と促されてから、香合・香箸などを拝見。
拝見の基本手順
① 正客が「拝見させていただきます」と一礼。 必ず亭主の声掛けの後に
② 香合を左手で軽く持ち上げ、右手を添える。 両手で丁寧に
③ 表・裏・底・蓋裏を静かに観る。音を立てず、指跡を付けないように注意
④ 所定の向きに戻す。元の置き方と向きを必ず確認
⑤ 次客へ「どうぞ」と手渡すか、元の位置に戻す。席中の流れに従う
■注意
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香合は香を入れる器であると同時に美術品的価値も高いため、丁寧な扱いが必須。
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中に香が残っている可能性があるため、傾けない・振らない。
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指の脂や汗が漆・陶磁器を痛めるので、拭き布や懐紙の上で扱うこともあります。
■飾り香合(観賞用)
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茶席によっては「飾り香合」として床の間や飾り棚に置かれる場合もあります。
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季節の趣向を示す演出として、干支や花鳥、歳時記にちなんだ香合が選ばれます。
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この場合も拝見はされますが、使用されるわけではありません。
狸香合 四代 高橋楽斎作 共箱付
信楽焼の伝統を継承する陶芸家、四代 高橋楽斎による狸を象った香合です。丸みを帯びた愛らしい造形により、狸の親しみある姿を巧みに表現しており、香を納める実用性に加え、鑑賞性にも優れた一品です。
高橋楽斎は、代々信楽を拠点とする陶家の名跡で、本作には四代目による丁寧な造形と穏やかな釉調が見られます。信楽焼特有の土味や素朴さが生きており、茶席に遊び心を添える香合としても好適です。共箱が付属しており、作者銘と共に作品の来歴が保証されます。
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