2014年10月16日
大森暁生 嘘と創造
新美術新聞10月1日号( No.1356)内
”日々好日” にて、読み切りのエッセイ「嘘と創造」の寄稿を紹介致します。
嘘と創造 大森暁生
世の中には様々な未確認生物(通称:UMA)がまことしやかに語り伝えられています。ネッシー、ビッグフット、我が国でもツチノコなどは特に知られた存在です。僕の作品にも「月夜のJack-alope」「Wolpertinger in the moon」といったキメラ化したウサギをモチーフにしたものがあります。
“Jackalope”(ジャッカロープ)はアメリカの伝説上の動物で、ウサギなのに立派な角が生えています。
現地ではラッキーモチーフとして受け入れられ、Jack-alopeのぬいぐるみ等お土産収入だけで生計を立てている村もあるそうです。かたや”Wolperting-er” (ヴォルパーティンガー)はドイツの伝統で、ウサギの背中に羽根が生えています。こちらは「月夜の晩、美しい女性だけが見る事が出来る」といった随分と好都合な言い伝えが付随します。
火のないところに煙は立たずで、それぞれ語り継がれるようになるにはそれなりのルーツがあるものです。場所は違えど両者ウサギがモチーフなのは、おそらくウサギは免疫力が弱く、伝染力の強いウイルスにかかることで奇形がおきやすい事にあると思われます。けれど、異系のものをラッキーモチーフとして温かく受け入れる文化は素晴らしいと思います。
これは、インドのヒジュラ(両性具有者)が神の化身とされ特別な職を与えられたり、青森のイタコさんを霊力を持つシャーマンのような存在とする事で、実際には盲目の方達の救済事業であるといったことと通じます。
これら文化における優しい”嘘”は”創造”が持つなによりの力だと思っています。
福島原発事故やその後の対応に見られるような国家的な大嘘が当たり前のようにまかり通る世の中で、せめて創造だけは素敵な嘘をついていきたいと思っています。
(1971年東京生まれ、彫刻家、無所属)
月夜のJackalope
H28×W18.5×D20(cm) ブロンズ
ED50
AP10
Photo : KATSURA ENDO