2025年5月7日
茶入とは茶道における濃茶の象徴 茶道具買取ブログ
茶入は、茶道において濃茶(こいちゃ)を点てる際に用いる茶葉容器であり、その格の高さから「茶器の王」とも称されます。
一般的に堅く焼き締められた陶器製が多く、装飾や形状、由緒によって名品として珍重されることもあります。
唐物肩衝茶入 北野 南宋時代 1101年〜1300年
本作は、南宋期に焼かれた唐物肩衝茶入である。胴部にふくらみをもたせた端正な肩衝形をとり、鉄分を多く含む淡褐色の緻密な陶胎により、軽やかでありながらしっかりとした存在感を備えている。轆轤挽きは非常に薄く、器形全体に気品ある張りをもたらす。
底部は板起こしの平底で、外周がわずかに立ち上がる。胴裾は緩やかにすぼまり、中央には一条の沈線がめぐらされ、形に締まりを与える。頸部は短く立ち上がり、口縁は外に捻じ返され、丸みをもって仕上げられている。
施釉は口辺から胴部にかけて茶褐色の鉄釉を薄く掛け、裾から底にかけては土見せとする。釉の溜まった部分は黒褐色を呈し、なだれのように底へと流れ落ちる景色を見せる。なお、口縁および底周りには後補の繕いが認められる。
高さ8.9cm、口径4.3cm、胴径7.4cm、底径4.2cm。
歴史と由来
茶入の起源は中国・南宋時代に遡り、薬種や香料を収めた唐物壺が日本にもたらされ、それを茶葉の保存容器として転用したのが始まりとされています。室町時代以降、喫茶文化の広まりとともに、これらの壺は「唐物茶入」として格別に尊ばれるようになりました。
やがて、和様の趣を重んじるわび茶の興隆とともに、国産の「和物茶入」も登場し、瀬戸焼などを中心に独自の形や風格を持つ作品が生まれていきます。
主な種類
茶入は形状や由来によって分類され、それぞれに特有の美意識があります。
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肩衝(かたつき)
胴がふくらみ、肩が張ったもっとも格式の高い形。唐物茶入の代表的形式で、「松屋肩衝」「初花」などの名物が知られます。 -
茄子(なす)
胴が丸みを帯びて茄子に似た形。柔らかさと安定感があり、「松本茄子」「松嶋」などが有名です。 -
文琳(ぶんりん)
球形に近く、口元がややすぼまった優美な形。唐物文琳が特に珍重され、「付藻茄子」などの名物があります。 -
瓢箪(ひょうたん)大海(たいかい)尻膨(しりぶくら)
など形状による分類は多岐にわたり、それぞれ茶人の好みに応じて用い分けられました。
漢作茄子茶入 銘 茜屋 南宋時代・13世紀 高7.4cm 径7.7cm
ふっくらとした茄子形の小壺に、栗皮色に近い黒飴釉がむらなく掛けられ、ところどころには蛇蝎釉のなだれが景色を添えている。やや高めの肩張りに柔らかな腰の張りを見せ、気品ある姿を呈す。本品は『玩貨名物記』に「唐物小壺」の筆頭として、「あかねやなすひ 尾張様」と記されており、尾張徳川家伝来の名物茶入として知られる。かつて堺の商人・茜屋吉松が所持していたことから「茜屋」の銘で呼ばれるに至った。その後、家康の手に渡り、駿府御分物として初代尾張藩主・徳川義直に伝わったとされる、来歴確かな名品である。
装飾と仕立て
名物茶入は、仕覆(しふく)と呼ばれる緞子や錦などで作られた袋に収められ、その裂地や縫製にも極めて高い芸術的・象徴的価値があります。また、牙蓋(げぶた)や塗蓋(ぬりぶた)も重視され、すべてが一揃いで茶人の「見立ての美」を体現します。
茶人たちの選好
千利休は「肩衝」を好み、名物「初花肩衝」や「新田肩衝」などに特別な価値を見出しました。一方、小堀遠州は典雅な「文琳」や「大海」を、武家風の茶を好んだ久田宗也は端正な「和物肩衝」を尊びました。時代ごとに、茶入の理想像も移り変わっていきます。
現代の茶入
今日でも茶入は、濃茶の点前において重んじられています。高台に銘があるものや、歴代の陶工による写し物も多く、美術品としても評価が高く、オークションや茶会でその真価が問われます。
瀬戸釉耳付茶入 銘 浦月江戸時代・17世紀 仁清作 高8.4cm 口径3.0cm 底径3.1cm
精緻に成形された白茶色の素地に、艶やかな褐釉がむらなく掛けられ、胴部には黄釉のなだれが柔らかな景を描き出す。肩には小振りながら存在感のある耳が左右に付き、底部は糸切り仕上げとする。全体に瀟洒で優美な佇まいをたたえる茶入である。その意匠は、唐物茶入には見られない軽妙な趣を備え、近世初期の公家風茶道を代表する金森宗和の好みに呼応する。宗和と深い交流のあった仁清が、宗和流の美意識に応えて創作した新たな様式の茶入とみなされる逸品である。
和物と唐物の比較 茶入における二つの系譜
茶入は、茶道具の中でも濃茶の象徴的存在として重んじられ、特に唐物(中国製)と和物(日本製)の二系統が知られています。この両者は、見た目や価値観の違いだけでなく、茶の湯における審美観の変化を示す重要な鍵ともなっています。
唐物茶入(からもの)
産地中国・南宋〜元〜明時代の製陶地(景徳鎮など)
時代的な登場
鎌倉〜室町時代に輸入
初期の用途
香料・薬種壺などを転用
器形の主流
肩衝・文琳・茄子など
焼成技法
施釉陶(釉薬をかける)
美意識
端正・左右対称・整った形
茶人の評価
室町の将軍・公家・初期の茶人に愛好された(足利義政、珠光など)
仕覆
錦・金襴などの唐裂が多い
名物の例
松屋肩衝・初花・付藻茄子・松本茄子
※唐物茶入は、室町時代の**「唐物賞玩(しょうがん)」**という文化の象徴でもあり、将軍や大名たちは舶来の唐物茶入に強い価値を見出していました。これらは器形が整い、釉調も美麗で、権威と格式を感じさせるものです。
和物茶入(わもの)
主に瀬戸(愛知県)、信楽(滋賀)、備前(岡山)など
時代的な登場
室町後期〜桃山期に登場・普及
初期の用途
茶の湯のために意図的に制作
器形の主流
肩衝・大海・瓢箪・尻膨など幅広い形
焼成技法
施釉・焼締・灰被など多様
美意識
侘び・枯れ・不均衡・土味
茶人の評価
村田珠光以降、千利休・古田織部・小堀遠州らによって高評価
仕覆
裂地も国産の見立てが増える
名物の例
利休尻膨・瀬戸肩衝・信楽尻膨・遠州好大海
※和物茶入は、**千利休以降の「わび茶」**の精神に合致するものとして再評価されました。特に、焼締や素朴な作行き、土味のある表情は、唐物とは対照的な日本独自の美意識「侘び寂び」の体現とされました。
▪️唐物は「格式と完成美」、和物は「不完全と自然美」を体現しています。この両者のバランスは、茶人の美意識の中で揺れ動きながら発展してきた日本の茶道文化そのものを象徴しているとも言えるでしょう。
唐物茶入 名物とその逸話
1. 初花肩衝(はつはな かたつき)
分類:唐物肩衝
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由来・逸話:足利将軍家に伝来した名品で、三斎(細川忠興)から千宗旦へと受け継がれたとされます。名は、早春の一輪の花のように清楚な美しさを讃えたもの。利休も愛したと伝えられますが、その後「三斎家伝来の筆頭茶入」として、千家にとっての理想の茶入とされました。
2. 松屋肩衝(まつや かたつき)
分類:唐物肩衝
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由来・逸話:奈良の豪商・松屋久政の所持に由来。後に織田信長、豊臣秀吉、徳川家康へと伝わった、日本を代表する名物茶入です。古格を誇り、室町時代からその存在が知られていた**「三肩衝」**の一つ。
3. 新田肩衝(にった かたつき)
分類:唐物肩衝
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由来・逸話:南北朝時代の武将・新田義貞の所持とされ、歴史的な名を冠する名物。後に三好家、織田家を経て豊臣秀吉の手に渡ります。利休もこの茶入に格別な関心を抱いたとされ、三斎にも所望されました。
4. 松本茄子(まつもと なす)
分類:唐物茄子
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由来・逸話:松本幸四郎が所有したことからその名がついたとされる。後に茶人の間で「茄子茶入の最高峰」と称され、名物裂である「藤浪緞子」の仕覆が添えられていました。形がふっくらと丸く、非常に端正な作。
5. 付藻茄子(つくも なす)
分類:唐物茄子
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由来・逸話:「三茄子」のひとつとされ、千利休が絶賛した逸品。徳川家に伝来し、後に将軍家所蔵となる。付藻とは水草のようにたなびく釉薬の景色に由来するといわれます。仕覆は「緞子仕覆」、利休の見立て。
和物茶入 名物とその逸話
1. 瀬戸肩衝(せとかたつき)
分類:和物肩衝(瀬戸焼)
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由来・逸話:尾張国・瀬戸の窯で焼かれた茶入で、利休や織部、小堀遠州が愛用。唐物に勝るとも劣らない出来を示す名品が多く、「和製唐物」として讃えられました。利休が「唐物に劣らず」と語ったとされるのもこの系統。
2. 信楽尻膨(しがらき しりぶくら)
分類:和物尻膨(信楽焼)
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由来・逸話:武野紹鴎や千利休らが見出した、素朴な美をもつ信楽焼の茶入。胴がふっくらと膨らんだ姿が「尻膨」の名の由来。焼締ならではの土味と窯変が魅力で、利休はこのような和物を好んで茶席に用いました。
3. 利休尻膨(りきゅう しりぶくら)
分類:和物尻膨(利休所持)
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由来・逸話:千利休が用いた尻膨茶入。焼締の肌と歪みの美が「侘び」を表現しているとされ、利休の美学の象徴的な器です。後に古田織部や細川三斎にも影響を与え、和物の価値を確立させた中心的な存在。
4. 遠州好大海(えんしゅうごのみ たいかい)
分類:和物大海(瀬戸焼)
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由来・逸話:小堀遠州が選好した大海形の茶入。大きな胴と穏やかな曲線が特徴で、典雅で礼儀正しい茶風を理想とした遠州の美意識を体現。細工や仕覆も精緻で、「美の集大成」と称される作品もあります。
名物茶入の位置づけ
名物茶入は単なる茶道具ではなく、所有者や仕覆、蓋、伝来の記録を含めた「一揃いの物語」として重視されてきました。中には、一国一城にも匹敵する価値があるとされたものもあり、戦国大名の外交・贈答に用いられた記録も残ります。
瀬戸肩衝茶入
「白肩衝」と付属仕覆 左から「牡丹唐草金襴仕覆」、「鶏頭金襴仕覆」、 「金地天鷲絨(ビロード)挽家仕覆」「牡丹唐草金襴仕覆」明時代(15~16世紀) 「鶏頭金襴仕覆」元~明時代(14~15世紀)
茶入における「仕覆」「名物裂」「茶人との関係性」
仕覆との関係性 ― 茶入を包む「もう一つの美」
仕覆(しふく)とは
茶入などの高貴な茶道具を包むために仕立てられた布製の覆い袋。主に錦・緞子・間道(かんどう)などの裂地で作られ、中身を守る実用性と**「見立ての美」を引き立てる審美性**を兼ね備えています。
仕覆の意義
伝来を語る証
名物茶入は、それに付属する仕覆や牙蓋も含めて一揃いで「名物」とされ、仕覆の由来もまた道具の来歴を雄弁に語る。
茶人の見立ての象徴
仕覆の裂地選定は、茶人の美意識・茶風を反映し、茶入の格や季節に応じた演出として大きな意味を持ちます。
茶会における格式の一端
拝見時に「袋から取り出す所作」も含め、茶入の重要性を引き立てる儀式的意味を持ちます。
名物裂の解説 ― 茶入仕覆に使われる高貴な布
名物裂は、茶道具の仕覆や袱紗に用いられる、特に珍重された裂地の総称です。以下は、特に茶入の仕覆として有名な名物裂の例です。
藤浪緞子(ふじなみ どんす)
間道(かんどう)
紹巴(しょうは)緞子
緞子(どんす)・錦(にしき)
※裂地の名称と茶人名の併記例 「利休間道」「遠州緞子」など、茶人の名を冠して伝来
まとめ
茶入は単なる茶道具ではなく、裂・仕覆・蓋・由来・茶人の見立てと一体で評価される複合的文化財です。特に仕覆に用いられた名物裂や、茶人ごとの好みによる「組み合わせの妙」は、茶入鑑賞の大きな醍醐味でもあります。
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