2025年5月2日

棗(なつめ)の成り立ち 棗とは一体何? 茶道具買取ブログ

棗を詳しく解説します。

棗とは、抹茶を入れるための茶器の一種で、木製の漆塗り蓋物容器です。その名称は、形状が植物のナツメの実に似ていることに由来します。

用途としては、濃茶と薄茶の両方に用いられますが、一般には薄茶用の漆器を「薄茶器(薄器)」と呼び、その代表的な形状として棗が広く知られています。薄茶用の棗は蒔絵などの装飾が施されることが多く、対して濃茶用は黒漆一色の落ち着いた意匠が基本です。

 

 

利休黒町棗

利休黒町棗 再来

利休黒町棗 銘、再来は、抹茶を入れるために用いられる棗です。木製の素地に黒漆を塗った造りで、長い年月を経て漆が深い臙脂色に変化しており、古雅な趣を湛えています。「町棗」とは、一般に作者不詳で粗雑に見える棗を指し、漆の塗りや木地の仕上げも簡素ですが、茶の湯の世界ではそのような素朴さにこそ“侘び”や“茶味”が見出されました。

この棗は千利休が特別に作らせたものではなく、町中で見つけて自ら好んで使ったと伝えられています。そのため「利休黒町棗」と呼ばれ、利休の侘びの精神を象徴する茶器の一つとして後世に大きな影響を与えました。棗の形状には重みがあり、蓋や底に厚みを残すなど、手に取った時に独特の存在感を感じさせる点も特徴です。また、内底が曲面ではなく平らに作られている点も、一般的な中棗との違いです。

銘の「再来」は、所有者の思いや作品の姿・由来から連想された名で、過去の茶の精神や美意識が現代に再び現れた、という意味合いも含まれていると考えられます。なお、この棗は江戸時代中期の裏千家四代家元・仙叟宗室に伝来したことでも知られ、千家における重要な伝世品の一つとなっています。仙叟は古典的な茶風を尊重し、利休以来の道具を重んじた人物であり、この棗の価値と意義を再評価した存在でもあります。

 

 

 

棗の歴史

 

棗の起源については諸説あります。伝承によれば、室町時代中期の茶人・村田珠光が、塗師の羽田五郎から納められたものが最初とされています。

しかし、この説には確たる史料がなく、藤田美術館などに羽田五郎作とされる古様の棗が現存するものの、その信憑性には疑問が呈されています。同様に、戦国時代の茶人・武野紹鷗の好みとされる棗についても、確証がないため、やや懐疑的に見られています。

一方で、『隔蓂記』(寛永20年/1643年)には「梅の花が棗に入れられていた」との記述があり、棗が茶器としてだけでなく多用途に使われていたことを示すものと考えられています。

これにより、『源流茶話』(元禄期、藪内竹心著)に記された「肩衝茶入の挽屋(木製の覆い)を転用した棗」という記述も、疑問視されています。

こうした史料を踏まえ、茶道具研究家・内田篤呉は、棗も「薬籠(やろう)」などと同様、元来は薬や香料を入れるための漆器が茶の湯に転用されたものであろうと推測しています。

確実な記録としては、『天王寺屋茶会記』の永禄7年(1564)8月20日、津田宗達の茶会に棗が用いられたのが最古の例とされており、これは他の木製薄茶器よりもやや遅れて登場していることが確認されています。

その後、千利休の好みにより茶会で使用されるようになり、利休の系譜を継ぐ茶人たちの間で定着。江戸時代には、薄茶器として広く普及しました。

 

 

意匠と形状の変遷

 

もともと棗は、黒漆で仕上げた簡素な器でした。その非装飾性には、格付けや名物志向の強かった従来の茶の湯文化への静かな対抗意識がにじみ出ています。基本形としては、千利休にちなむ「利休型」とされる大棗・中棗・小棗がありますが、それ以外にも多様な形状が生み出されています。

時代が下るにつれ、棗は茶入と同様に書院飾りにも用いられるようになり、次第に豪華な蒔絵が施される装飾的な棗も増えていきました。なお、室町時代製とされる蒔絵棗もいくつか現存しますが、それらは本来は茶器としてではなく、別用途の漆器だった可能性も考慮する必要があります。

 

 

 

棗の起源と形態の変遷

 

多様な棗の形状

あなたが挙げてくださった通り、棗には極めて多くの形状が存在し、それぞれが特定の茶人好みや用途、時代の美意識を反映しています。以下に代表的なものを分類・解説します。

 

【伝統系の代表的棗】

 

  • 珠光棗:村田珠光好み、寸胴で大型。

 

  • 紹鷗棗:武野紹鷗好み。珠光棗より小ぶりで軽快。

 

  • 利休棗:千利休好み。現在の「大・中・小棗」の原型。

 

※利休棗は、実際には大中小それぞれ3段階ずつ、計9種があるが、実務上は大別して3種とするのが一般的。

 

 

 

【変形・命名系棗】

 

  • 長棗(ながなつめ):縦長でスマートな印象。

 

  • 平棗(ひらなつめ):薄手で口径が広く、実用性が高い。

 

  • 尻張棗(しりばりなつめ)/下張棗:胴の下部がふくらみ、安定感のある形。

 

  • 鷲棗(わしなつめ):鷲が翼を広げたような曲線がある。

 

  • 胴張棗(どうばりなつめ):胴の中央がやや膨らむ優美な形状。

 

  • 碁笥棗(ごけなつめ):碁石を入れる「碁笥」に似た丸型。

 

  • 帽子棗:蓋がやや張り出した形。僧帽のよう。

 

  • 宗長棗・町棗・盛阿弥棗・寿老棗・壺棗・河太郎棗など
    茶人や意匠、形状に由来して名付けられたバリエーション豊かな棗群。

 

 

 

棗の語源と植物との関係

 

棗(なつめ)の語源は、クロウメモドキ科の植物「棗(ナツメ)」の実に形が似ていることに由来します。

 

  • この植物は初夏に芽吹くことから「夏芽」とも表記され、秋には赤く楕円形の実をつけます。

  • 実が乾燥すると「なつめ棗」として、動悸・息切れ・不眠などに効く生薬となり、茶の湯との結びつきも深まります。

 

 

嵯峨棗とは

 

嵯峨棗 枝垂桜蒔絵棗

嵯峨棗 枝垂桜蒔絵棗

桃山時代から江戸時代初期にかけて、京都の無名の工人たちによって制作された、いわゆる嵯峨棗を代表する一作。器面全体に意匠が巧みに配置され、細部にとらわれることなく、のびやかな筆致で文様が表現されている。名もなき職人たちによる量産品ではあるが、その素朴でおおらかな趣がかえって茶人たちの美意識にかない、格別の評価を得た

 

 

● 名称の由来

「嵯峨棗」という名称は、京都・嵯峨野の地名に由来するとも、あるいは嵯峨に隠棲していた千宗旦の隠棲期の制作意匠に基づくとも言われています。

また一説では、「嵯峨の地で用いられた」「嵯峨の地で生まれた形」など、明確な成立背景は諸説あるものの、茶の湯の侘びを極めた千宗旦が好んだ、簡素で控えめな意匠の代表格とされています。

 

形状の特徴

 

  • 一般的な利休型棗(大・中・小)よりもやや背が高く、全体にすっきりとした縦長の印象

  • 胴は細身で、裾に向かってやや絞りがあるのが特徴的

  • 蓋は比較的平たく、全体のプロポーションが洗練されており、軽やかな趣を醸します

※このような造形は、千宗旦のわび・さびの美意識に適ったものであり、過度な装飾や重厚さを避けた簡素な道具として高く評価されます。

 

 

■ 茶道各流派における位置づけ

 

  • 表千家・裏千家・武者小路千家などの千家流では、嵯峨棗は宗旦好みとして伝えられ、現在も特別な意図のある茶席で用いられることがあります。

  • 近代においても、宗旦好みの道具の中では比較的制作例が多く、写し物や現代作家による復刻も存在します。

 

 

■ 蒔絵や塗りの意匠

嵯峨棗自体は、本来は真塗(黒漆)仕上げが基本で、装飾はあまり施されません。ただし、後世には嵯峨棗の形を写して、蒔絵や溜塗、朱漆などの意匠を加えた豪華な作例も登場します。

 

 

 

棗以前の木製茶器

 

棗の前段階としては、以下のような木製容器が使われていました。

 

  • 頭切(づきり):肩が切り落とされたような形の容器。

  • 薬籠(やろう):もともとは薬入れ。棗のルーツとされる説もあります。

  • 茶桶(さつう):やや大振りで収納力のある茶器。

  • 金輪寺(きんりんじ):名物茶器の一種で、木製漆器の代表。

 

これらはすべて、後の棗・中次など薄茶器の成立につながる系譜に位置づけられます。

 

 

透漆金輪寺茶器 江戸時代 

透漆金輪寺茶器 江戸時代 17世紀

金輪寺茶器は、後醍醐天皇が金峰山寺で「一字金輪法」を修した際、僧に茶をふるまうため山中の蔦を刳り貫いて作らせたと伝わる木製の茶器です。本歌は京都・大雲院に所蔵されており、後醍醐天皇から足利義政・義昭、織田信長を経て伝わったとされています。材質は蔦と伝承され、複雑に入り組んだ年輪と独特の木目を持ち、透漆の仕上げによって赤く艶やかな光を帯びています。陰翳礼讃の美意識を体現するその姿は、見る者に深い余韻を残します。

 

 

桑中次

桑中次

 

棗と中次と挽家の関係

 

『源流茶話』(藪内竹心著)には、「棗は小壺の挽家、中次は肩衝の挽家より見立られ候」とあります。

 

中次=肩衝茶入の挽家由来、棗=文琳・茄子など丸壺系の挽家由来という形状的な源流が示唆されています。

 

挽家の材質と形状例

 

  • 材質: 鉄刀木(たがやさん)、欅、桑、黒柿、花櫚、柚、沢栗、竹など

 

 

  • 意匠分類

    • 肩衝形 → 中次

    • 茄子・文琳形 → 棗

    • 丸壺 → 丸棗系

    • 瓢形 → 瓢棗(例外も多数)

 

 

 

棗の形状別分類と解説

 

 

■ 大棗(おおなつめ)

  • 特徴: 棗の中で最も一般的な形。胴と蓋の径がほぼ同じで、高さもある円筒形に近いバランス。

  • 利休好みとされる代表的な棗で、「利休型棗」とも呼ばれる。蓋の高さが胴の1/3を占め、調和の取れた端正な姿が魅力。

  • 用途: 薄茶用にもっとも頻繁に用いられる基本型。

  • 印象: 柔和で端正、侘び寂びに通じる。

 


 

■ 中棗(ちゅうなつめ)

  • 特徴: 大棗よりも一回り小さく、やや寸胴に近いフォルム。

  • 用途: 大棗では大きすぎる茶席や、より繊細な印象を出したいときに用いられる。

  • 印象: 小ぶりながらも品格があり、奥ゆかしい趣がある。

 


 

■ 小棗(こなつめ)

  • 特徴: 中棗よりさらに小さく、かわいらしい印象。蓋の高さは胴よりもやや低く、全体としてころんとした形。

  • 用途: 婦人好みの茶会や、春や秋など優美な演出を意図する場面に使われることが多い。

  • 印象: 上品で可憐な印象を与える。

 


 

■ 中次(なかつぎ)

  • 特徴: 棗の一種ながら、名称に「棗」が付かない独自の形状。胴がややふくらみ、蓋の径がやや小さく、肩に段差がある。

  • 由来: 茶壺や茶入れの蓋を写したようなデザインで、古くから名物として扱われた。

  • 用途: 濃茶用にも用いられることがあり、棗と茶入の中間的な性格を持つ。

  • 印象: 格調が高く、正式な場にも向く。

 


 

■ 真塗棗(しんぬりなつめ)

  • 特徴: 漆の塗りが完全に均一で光沢のある黒漆仕上げ。装飾はなく、漆そのものの質と技によって勝負される。

  • 用途: 千家流では格式ある茶席や初釜など、特に静謐さを大切にする場に用いられる。

  • 印象: 極めてストイックで、「用の美」の真髄を体現する。

 


 

■ 面中次(めんなかつぎ)

  • 特徴: 中次の派生形で、蓋の面がやや高く平らな仕上がり。面取りされた肩のフォルムが特徴。

  • 用途: 格調高く、また蒔絵などを映えさせる場面にも適する。

  • 印象: 中次よりも柔らかさと上品さが加わる。

 


 

■ 平棗(ひらなつめ)

  • 特徴: 胴が低く、径が大きく見える。平べったい形が特徴で、より多くの抹茶を入れることができる。

  • 用途: 大寄せ茶会や多数点ての際に用いられることが多い。

  • 印象: 実用的でありつつも、構えない風情がある。

 


 

■ 雪吹(ふぶき)

  • 特徴: 口がすぼまり、裾が開いたユニークな形。いわゆる「雪が吹き溜まるような」かたちから命名。

  • 用途: 季節感の演出や、変化をつけたいときに使用される。

  • 印象: 個性が強く、遊び心を感じさせる。

 

 

九重桐蒔絵 雪吹

九重桐蒔絵 雪吹

 

 

棗の総まとめ

棗は一見シンプルながら、歴史的変遷・形状・意匠・用途・系譜において非常に奥深い茶器であり、茶の湯の精神と密接に結びついています。形状や好みによって茶席の格や雰囲気が変わり、まさに茶人の「意匠の哲学」が詰まった器といえるでしょう。

 

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