今回は、1958年に描かれた北川民次の油彩画を買取いたしました。瀬戸での制作活動が最も充実していた時期の作品のひとつで、画面に大きく咲く白いカラーの花が印象的です。背景には淡い紫が広がり、花弁の純白さをいっそう際立たせています。

こちらの作品には、メキシコでの滞在で培った人間や自然に対する眼差しと、日本の風土に根ざした感性が重なり合っているようです。この度は大切な作品をお譲りいただき、誠にありがとうございました。

北川民次は1894年に静岡県金谷町に生まれ、20歳のときに渡米しました。働きながら美術を学び、その後キューバやメキシコに移り、約15年を現地で過ごしました。1920年代のメキシコは壁画運動が盛んで、北川もその中で画家、そして教育者として出発しました。民衆を描く姿勢や社会への批判的な視点は、この時期に培われたものです。

1936年に帰国した北川は東京で活動したのち、戦時中に夫人の出身地である愛知県瀬戸に疎開しました。戦後は瀬戸を拠点に、数多くの作品や著作を発表し続けました。瀬戸に残るアトリエは、大正時代の陶器工場を改造したもので、戦後25年ほど北川の創作を支えました。ここから瀬戸の風土を背景にした多くの名作が生まれています。

北川の画業の特徴は、メキシコで学んだ民衆への眼差しを生涯通して持ち続けたことです。単なる写実ではなく、画家自身の考えや社会への問いかけを作品に込める姿勢は、日本に帰国後も変わりませんでした。二科会会員として活動しながら、大画面に庶民の暮らしや労働者の姿を描き、時には社会問題を主題に据えています。

また、教育者としても独自の活動を展開しました。メキシコの野外美術学校での経験を生かし、日本では久保貞次郎らと「コドモ文化会」を設立して絵本制作に携わり、戦後には名古屋の東山動物園で「名古屋動物園児童美術学校」を開校しました。子どもの自主性を重んじる教育理念は、北川が生涯大切にしたものです。

1955年にはメキシコを再訪し、旧友との交流を深めました。その後アメリカやヨーロッパを巡り、ルネサンス以前のモザイク壁画に感銘を受けます。帰国後には瀬戸の陶磁器職人と協力してモザイク壁画制作に取り組み、瀬戸市立図書館や名古屋CBC会館などに作品を残しました。

民次の作品は、絵画としての美しさだけでなく、その背景にある思想や歴史を知ることでより深く味わうことがでるかもしれません。

北岡技芳堂では、北川民次をはじめとする近代洋画や日本画をはじめ、掛軸や茶道具など幅広い美術品の査定・買取を承っております。北川民次の作品のご売却やご整理をお考えの際には、ぜひお気軽に北岡技芳堂までご相談ください。

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