先日は、中村研一の油彩画を買い取りいたしました。中村研一は、確かな写実力と明快な構図で花や風景を数多く描き、戦前から戦後にかけて日本美術の発展に大きく寄与した洋画家です。

昭和期の官展アカデミズムを牽引した存在として知られ、正確なデッサンと端正な筆致によって造形的に構築された大画面作品を得意としました。とりわけ、戦争画の制作期は作家としての全盛期ともいわれ、中村の真骨頂として高く評価されています。

今回の作品は、白いマーガレットを中心に、赤いチューリップが鮮やかなアクセントとして描かれた花瓶の静物画です。背景は淡い色調でまとめられ、花々の存在感がより際立っていますね。

お客様のお宅で長年大切に飾られていたとのことで、額装はしっかりとした重厚なつくりで、作品を一層引き立てていました。日差しの当たる環境での展示歴があったとのことですが、画面の保存状態はおおむね良好で、落ち着いた色彩が当時のまま残されていました。この度は、誠にありがとうございました。

中村研一は1895年、福岡県宗像郡南郷村光岡（現在の宗像市原町）に生まれました。父の中村啓二郎は住友本店で鉱山技師長を務めた人物で、弟には同じく洋画家として知られる中村琢二がいます。

1909年に福岡県立中学修猷館に入学し、そこで児島善三郎らと出会い、絵画同好会「パレット会」を結成しました。修猷館時代には画家を志しましたが、当初は父の反対を受けたものの、のちに許されて東京美術学校へ進学し、岡田三郎助に師事しました。

1919年に光風会展に初入選し、翌年には帝展に初入選。1921年には特選を受賞し、若くして頭角を現しました。1923年にはフランスに留学し、パリでモーリス・アスランらと交流しながら6年間を過ごしました。この時期にサロン・ドートンヌ会員となり、ヨーロッパでの経験が彼の画風を大きく育てました。

1928年に帰国すると、帝展で特選を重ねるなど官展系を中心に活躍し、1930年には帝国美術院賞を受賞。翌年には帝展の審査委員となり、その後も日展や新文展で重要な役割を担いました。戦時中には藤田嗣治らとともに作戦記録画の制作を委嘱され、戦争画家としても活動しました。

1945年の東京大空襲では代々木初台の自宅とアトリエを失いましたが、小金井に移り住み、以後亡くなるまでの生涯をそこで制作に捧げました。戦後も日展や光風会展を中心に活動を続け、1950年には日本芸術院会員に推挙され、1958年には日展常務理事を務めました。写実的なデッサン力と構成力に裏打ちされた堅実な画風は、昭和新写実主義を代表する存在として高く評価されました。

1967年に72歳で亡くなり、従四位勲二等瑞宝章を追贈されました。その後も作品は多くの人々に愛され続け、妻・富子によって遺作が守られ、1989年には「中村研一記念美術館」として公開されました。現在は小金井市に寄贈され、「中村研一記念小金井市立はけの森美術館」として受け継がれています。

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