アンリ・ド・トゥールーズ＝ロートレック「ディヴァン・ジャポネ」ED225のリトグラフを買取いたしました。

「ディヴァン・ジャポネ」には様々なタイプがございますが、一番評価が高いのは、1893年に制作されたリトグラフ（石版画）のポスター作品です。

描かれているのは、パリ・モンマルトルにあったキャバレー「ディヴァン・ジャポネ（Divan Japonais）」です。店名の意味は「日本の長椅子」で、当時の日本趣味（ジャポニスム）の影響を受けた内装が特徴でした。

ポスターの中央には、当時人気だった踊り子ジャヌ・アヴリルが描かれ、その隣には象徴主義の詩人エドゥアール・デュジャルダンの姿が見られます。さらに、舞台上の左奥には、黒いロンググローブがトレードマークの歌手イヴェット・ギルベールがシルエットで描かれています。ギルベールの顔をあえて見せず、手袋のみで彼女を表現しているところも面白いですね。

19世紀末のパリは、芸術と享楽が交錯するきらびやかな時代でした。ムーラン・ルージュをはじめとしたダンスホールやキャバレーでは、連夜ショーが繰り広げられ、人々は刹那的な美や刺激を求めて集いました。

こうした文化的熱気のなかで、ロートレックは一流の芸術家として、華やかな表舞台だけでなく、その背後にある人々の哀愁や虚無感までも描き出しました。

《ディヴァン・ジャポネ》は、ポスター芸術の域を超え、19世紀末のパリの空気感とジャポニスムの影響、そしてロートレックの冷静な観察眼を一枚に凝縮した作品です。

アンリ・ド・トゥールーズ＝ロートレックは、19世紀末のフランスで活躍した画家・版画家です。1864年、南フランスの名門貴族の家に生まれ、幼少期から体が弱く、10代のうちに両脚を骨折したことが原因で、身長はおよそ150cmのまま成長が止まりました。

17歳で画家を志し、まずは動物画家のルネ・プランストーのもとで学びます。プランストーの作品を模写しながら、特に馬や騎馬の姿に惹かれて多く描くようになります。

1882年にプランストーの紹介で肖像画家レオン・ボナの画塾に入門し、アカデミックな古典技法を学びますが、ボナが国立美術学校の教授に就任し画塾を閉じたことをきっかけに、新設されたフェルナン・コルモンの画塾へと移ります。コルモンの教室には、エミール・ベルナールやフィンセント・ファン・ゴッホといった先鋭的な芸術家たちも集っていました。

1884年には、画塾仲間とともにピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの代表作《芸術と美神たちが崇める聖なる森》を皮肉たっぷりに模した《聖なる森のパロディ》を制作。象徴主義の旗手として評価されていたピュヴィスの作品をあえて風刺することで、伝統的なアカデミズムから決別します。

印象派が登場し、美術の新しい潮流が生まれつつあったパリで、ロートレックは上流階級と庶民の文化が混在するモンマルトルに惹かれ、活動の拠点とします。1889年に、モンマルトルにダンスホール「ムーラン・ルージュ」がオープンし、その支配人から依頼を受けて制作したポスター《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》（1891年）で一躍注目を集めました。

1896年、娼館で暮らす女性たちの日常を題材とした版画集『彼女たち』を発表します。ロートレックは観察者として娼館に通ったのではなく、実際にその場で生活を共にし、彼女たちと同じ時間を生きた者として描きました。

展覧会にも積極的に参加し、ベルギーやロンドンにも作品を出品しました。また、ナビ派の画家モーリス・ドニやエドゥアール・ヴュイヤールらとも交流を持ち、共同展覧会も開催されました。出版関係からの依頼も増え、ポスターだけでなく、挿絵や雑誌掲載用の作品も数多く手がけるようになります。

晩年は奔放なモンマルトルでの生活の影響でアルコール依存症に苦しみ、1901年、36歳の若さでこの世を去りました。

死後まもなく友人たちによって回顧展が開かれ、1922年には故郷アルビにトゥールーズ＝ロートレック美術館が設立、画家としての功績も広く紹介されるようになりました。

単なるポスター画家ではなく、近代都市に生きる人々の哀歓を描いた、鋭くも温かな芸術家として今なお高く評価されています。

北岡技芳堂では、ロートレックのポスター、リトグラフなどの査定、買取を行っております。ご不明な点などございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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【アンリ・トゥールーズ・ロートレック　略歴】

1864年　
フランスのパリで誕生

1882年　
パリのレオン・ボナの画塾へ入塾

1891年　
ムーランルージュを制作

1901年　
逝去（享年36）

1999年　
フランスで映画「葡萄色の人生」が公開

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※買取価格は制作年、作風、状態などにより相場が変動いたしますので、
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