小出楢重の水彩画を買取いたしました。小出楢重は、大正から昭和初期にかけて活躍し、日本人としての油彩画を追求し続けた画家です。

今回買取をさせていただいた「富士」は、水墨的表現の作品でありながら、洋画家・小出楢重らしい軽やかな色彩感とリズミカルな筆運びが際立っています。

輪郭は極めて簡素にとらえられており、まるで詩のような簡潔さが全体に漂います。空間の抜き方は、日本画や書の美意識にも通じる構成となっており、富士山の崇高さや自然の静けさを象徴的に伝えています。

日本的な主題である富士山を、東西の美術感覚を融合させた独特の視点から描いた、楢重の遊び心と詩的抒情を感じることのできる作品です。

小出楢重（こいで ならしげ）は、1887年に大阪府大阪市南区長堀橋筋一丁目（現：中央区東心斎橋）に生まれました。

幼少期から画才を示し、小学校から中学時代にかけては、四条派の画家・渡辺祥益（1848–1905）に日本画を学びます。

1907年、東京美術学校（現・東京藝術大学）の西洋画科を受験するも不合格となり、日本画科に編入します。下村観山の指導を受けましたが、西洋画への志望を捨てきれず、2年後に西洋画科へ転科しました。

卒業後は大阪に戻り、二科展に出品した『Nの家族』で樗牛賞を受賞し、画壇に華々しく登場しました。翌年には『少女お梅の像』で二科賞を受賞。挿絵や装幀の仕事にも取り組み、ガラス絵の制作も開始します。

1921年には渡欧し、パリのソンムラール街に滞在、ベルリンや南フランスのカーニュなどを巡りましたが、パリ画壇への失望を早々に妻への手紙に記しており、滞在はわずか5か月で終わりました。

1923年、二科会員に推挙されますが、同年の関東大震災により第10回二科展（東京開催）は中止となります。

楢重は黒田重太郎、国枝金三とともに大阪巡回展を実現し、翌1924年には鍋井克之を加えた4人で、大阪における洋画研究の拠点となった信濃橋洋画研究所を設立します。これは大阪初の本格的な洋画教育機関となり、昭和初期には研究生が約400人に達しました。

楢重は、岸田劉生や中村彝らと同時代の画家ですが、黒田清輝以来主流だった白馬会系の洋画壇に飽き足らず、日本独自の油絵表現の確立に尽力した画家の一人です。

特に裸婦画では「裸婦の楢重」と称される独自の様式に到達し、理想化された西洋の裸体像とは異なり、日本人の感性に基づく新たな表現を打ち立てたと評価されています。

他にも、素描やガラス絵、装幀、挿絵、随筆などにも優れた才能を発揮し、多方面で活躍しました。

裸婦画や静物画などで新境地を拓く中、楢重は1931年に心臓発作により43歳で急逝しました。

北岡技芳堂では、小出楢重の油彩画、水彩画、水墨画、ガラス絵などの査定、買取を行っております。ご不明な点などございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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小出楢重の作品の鑑定は、小出楢重の会で行っております。所定鑑定機関が定まっている作家の作品については、弊社にて鑑定証取得の代行も行っております。ご不明な点などございましたら、お気軽にご相談ください。

【小出楢重 略歴】

1887年
大阪府大阪市南区長堀橋筋に生まれる

1909年
東京美術学校西洋画科に転入

1919年
二科展樗牛賞を受賞

1920年
二科賞受賞

1924年
信濃橋洋画研究所設立

1931年
死去

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※買取価格は制作年、作風、状態などにより相場が変動いたしますので、
掲載されている金額は、ある程度の目安としてご参考にしていただけますと幸いでございます。

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