山内多門（やまうち たもん）の掛軸を買取いたしました。筆技に優れた山水画で知られ、明治後期から昭和初期にかけて活躍した日本画家です。明治時代、日本の絵画は急激な変化の中で転換期を迎えます。西洋の表現も取り入れられ、新しい日本画を求めた模索が始まりました。山内多門も、この時代に伝統的な狩野派の流れを汲む山水画で力を発揮しました。

1878年、宮崎県都城市に山内勝麿の子として生まれます。兄が二人いましたが、西南戦争で戦死したため、多門が山内家を継ぎました。幼いころから絵が好きで、16歳の時、同じ宮崎出身で都城島津家のお抱え絵師だった狩野派の中原南渓から日本画の基礎を学びます。

その後、都城尋常小学校に教師として就任、母親と暮らす日々が続いていました。21歳になろうとしていたころ「日本美術」に感銘を受けます。「日本美術」は1898年、日本画の革新をめざして岡倉天心が橋本雅邦や横山大観らを引き連れ、東京谷中に設立した日本美術院の機関誌です。   

周囲は反対しますが姉夫婦の理解を得て上京、同郷の造船技師で経営者だった須田利信の家に寄寓しながら、円山四条派の代表的人物である川合玉堂に入門、雅号都洲を授かります。翌年には玉堂の勧めで橋本雅邦に師事しました。同年には日本美術院の活動に加わります。この二人の師のもと、多門は日本美術院の公募展に第2回展から最後の第10回展まで欠かさず出品し、第3回展のほかは毎回入賞するという華々しいスタートを切りました。

1903年、画号を都洲から本名の多門に改めます。この頃は須田利信の後援を受けて研鑽に励み、同じ院展の中堅画家である山田敬中と比較されるまでになりました。この頃は伝統的狩野派風の強い線ではなく、雪舟の広大で雄渾な山水画に多く学んでいます。

1906年、国画玉成会の創立同人に名を連ね後に幹部となり、大正に入ると二葉会の幹事も務めました。1916年にチフスを患い九死に一生を得た後、中島観誘に就いて禅を深めるなど、より内生的になっていきます。1919年、帝展で『天竜四季』が最高賞を獲得し、翌年からは審査員となりました。1920年に朝鮮半島、1922年には中国を旅し、その取材をもとに山水画の新しい表現を試みました。

活動が日本画壇の中核として本格化し名声が確立してきたころ、惜しくも彼は病に倒れ、1929年の第10回展「長江大観」が最後の官展出品となりました。1930に、大作である明治神宮成徳記念絵画館壁画「中国西国巡幸鹿児島着御」を制作、献納してから床につくことが多くなり、1932年54歳でこの世を去りました。

この時代、江戸時代の伝統からどのように新しい日本画を生み出していくのか、画家たちは苦心していました。横山大観らが文展を離れ、再興した日本美術院の新しい潮流へと向かう中、大観らが提唱した朦朧体は当時の守旧派から批判を浴びて評価は低いものでしたが、次第に認められるようになっていきます。

玉堂は多門について「思潮の推移、表現の変化きわまりなき時代によく時流に染まず個性を一貫してその特色を残したところに一段貴い彼独自の存在を認める」「他の門人と全然異なった北宗系の健筆を振う一人きりの大切な存在であった」と語っていたそうです。多門自身、その個性に悩むこともあったかもしれません。自分と向き合ったとき、時流の向かうところと自分の資質を生かせる場所が同じではないことを悟り、自己の筆技を深め、新しい表現を試みようとしていました。

多門の作品は、狩野派をベースとした山水画が特に優れていますが、正統的な狩野派ではなく、山水画の細やかなタッチを上手く取り入れているのが特徴です。山岳や川などの自然の景観を描いた山水画が得意で、多くの作品を描き、高い評価を受けました。出身地の都城市立美術館には多くの作品が収蔵されています。

後進の育成にも力を注ぎ、門下には都城出身の大野重幸や北海道出身の岩橋英遠などをはじめ、100人以上を超す弟子がいます。身長は180cmほどあり、武骨な見かけに似合わず性格はとても穏やかで、同郷の人がくれば絵筆を置き、浅草に案内してごちそうしたりするなど気配りの人だったそうです。誠実な人柄と強い信念を持ち、清らかで力強い作品を生み出し続けました。

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※買取価格は制作年、作風、状態などにより相場が変動いたしますので、
掲載されている金額は、ある程度の目安としてご参考にしていただけますと幸いでございます。

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