堂本印象「枝頭㐂春」の掛軸を買取いたしました。こちらは中年頃の作品となっております。全体にシミが出ておりましたので、現在の市場での相場も踏まえまして、今回の査定額とさせていただきました。20年ほど前は、中年頃の作品は買取価格が100万円を超えておりましたが、現在では晩年の抽象作品が高い評価を得ています。

堂本印象は1891年、京都市上京区に代々続く造酒屋「丹波屋」の父・伍兵衛、母・芳子の三男として生まれました。父は家業を営む一方、近隣の富岡鉄斎をはじめとする芸術家たちとの親交もあり、古美術、茶道、華道、俳諧などに造詣が深い人物でした。

幼少のころより読書や絵画が好きだった印象は、小学校卒業後に京都市立美術工芸学校図案科へ進学します。学生向けの季刊誌に夢中で、紙面を飾ったコマ絵の絵画表現に魅了され、自らもコマ絵に応募して入選・受賞するなど、早くも後の片鱗を見せます。

しかし在学中に家業が傾き、ほどなく父が病で倒れ、印象が20歳の時に他界してしまいます。既に独立していた二人の兄に代わり、母と大勢の兄弟を抱えて一家を背負うことになります。同級生たちが市立絵画専門学校へ進む中、家計を支えるために龍村製織所の図案家として大阪で働き始めます。西陣の龍村平藏の織物工房で帯や着物の図案制作にたずさわり、すぐに才能を発揮、華麗なデザインで人気を博しました。龍村での収入は全て家族に渡し、自分は人形作りで生計を立てていたといいますが、画家への志を捨てたわけではありませんでした。この頃自ら「印象」号を名乗り、女性のスケッチや恋の歌など興味深い作品を残しました。

9人兄弟の三男であった印象は、1918年に苦学して画道に入ります。かねてからその才能を認めていた龍村による援助を受け、27歳の時、遂に京都市絵画専門学校に入学することができました。 翌年には早くも発足したばかりの第1回帝展に《深草》が初入選しデビューを飾り、日本画家としての道を歩みはじめました。1920年に西山翠嶂の画塾青甲社に入門し、絵画専門学校卒業後は研究科に進みました。

若い頃からすぐれた才能が認められ、数々の大作を発表して一躍画壇の花形となりました。以後、特選、推薦と、数年ならずして異例の好成績をあげ、帝展、新文展、日展へ出品を続け、精力的に寺院の壁画や襖絵も描きました。

1930年京都市立美術工芸学校教論、1933年より画塾東丘社を創立し、主宰して後進の育成にも力を入れ、1936年母校の京都市立絵画専門学校教授として教鞭を5年ほどとり、京都画壇の中心的な役割を果たします。

堂本印象は厳格な仏教信仰者でもあり、寺院の壁画等を数多く制作しました。仁和寺黒書院や東福寺本堂、東寺小子房など有名寺院の障壁画を描く機会を得て、宗教画家として一層大きく華開きました。印象と障壁画制作との関わりは、1925年に京都・大徳寺の塔頭である龍翔寺の襖絵、杉戸絵にはじまりまり晩年の1971年、京都・法然院の襖絵制作にいたるまで精力的に取り組みました。印象が手がけた障壁画の数は、およそ600面にも及びます。

印象は、生涯にわたり作品が大きく変化し、また多作でもありました。初期における古典的な日本画の表現様式が基礎となり、戦後大きな変貌を遂げ、現実生活に取材した洋画的表現の濃いものとなり、さらに1955年ごろからは抽象的表現へと移行していきます。印象は、そのときの時代によって評価が大きく変化した作家の一人かもしれません。

【堂本印象　年表】

1891年　京都に生まれる、本名三之助

1906年　京都市立美術工芸学校に入学

1918年　京都市立絵画専門学校に入学、西山翠嶂の教えを受ける

1919年　第1回帝展に初入選

1930　年京都市立美術工芸学校教論

1936年　京都市立絵画専門学校教授となり後進を指導

1933年　画塾東丘社を創立

1938年　展覧会開催

1944年　帝室技芸員

1950年　日本芸術院会員

1961年　文化勲章を受章

1975年9月5日　午前1時38分心不全のため、京都第二赤十字病院で死去、享年84歳

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※買取価格は制作年、作風、状態などにより相場が変動いたしますので、
掲載されている金額は、ある程度の目安としてご参考にしていただけますと幸いでございます。

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