先日、中島潔の版画「寒椿」を買取いたしました。どこか懐かしく、日本人の心の中にあるふるさとの心象風景のようで、どちらかでご覧になったことがあるという方も多いのではないでしょうか。

中島潔といえば、懐かしい情景に子どもたちが遊ぶ姿の他にも、儚げでたおやかな女性像が思い浮かびます。買取の際は、女性が描かれている図柄よりも、子供をテーマにしている作品の方が市場での評価は高い傾向にあります。

ノスタルジックな童画や、可憐な少女像を描き続けてきた中島潔は、1943年に中国東北部(旧満州)において父・峰雄、母・ウメ子の間に生まれ、1歳の時に両親の故郷の佐賀県へ戻り育ちました。

1961年に佐賀県立唐津西高等学校卒業、母の死後2か月で再婚をした父への反発から家を出て、伊豆下田で温泉掘りの仕事を始めます。伊豆で働きながら独学で絵を学び、1964年に東京の広告会社に就職、アートディレクターとして数々の賞を受賞します。その後印刷所、広告会社などで働きました。

1971年にパリへ行って半年間絵の勉強をし、美術学校で学んだり美術館巡りをしたりして描くことへの自信を身につけました。1976年、33歳の時独立しフリーになりましたが、肝心の絵はさっぱり売れず、イラストや広告の仕事で食いつないでいたそうです。

1982年｢NHKみんなのうた｣のイメージ画を担当し、一躍全国的に注目を浴びます。同年9月に小田急百貨店で初個展を開催しました。ふるさとの四季の移ろいや、少年時代の思い出を呼び起こすような独特な作風により、心温まる作品を次々と発表してきました。2010年には、5年の歳月をかけて描きあげた、集大成ともいえる清水寺成就院の襖絵を完成させました。

中島潔は風の画家と呼ばれておりますが、シンガーソングライターのさだまさしさんが名付け親だったそうです。アルバム制作のためにスタジオに入っていた時のこと、喫茶店に飾ってある中島潔の「雨宿り」の絵に目をとめ、それが作曲するヒントとなり名曲「雨やどり」が生まれました。

喫茶店の壁に掛けたられた絵は、雨に降られた少女が途方に暮れて空を見上げている図柄だったそうですが、曲のヒットの記念にあの絵を手に入れたい！とその後購入、それが中島潔の絵が最初に売れた時だったそうです。

初めて絵が売れてから6年後、39歳 の時に念願の個展を開催しました。その推薦文を、ファン第1号であるさださんに依頼しました。 後に画集に寄せたエッセーで「ふと、中島さんの絵には、切なくて限りなく美しい風が常に吹き続けていることに気づいた」「この推薦文のタイトルに、なんと僕は『風の画家』と書いたのである」と、さださんが明かされています。

これまでに、NHKみんなのうたのイメージ画や、書籍・絵本等、海外でも高い評価を受け、多くの人々に親しまれてきました。「子どもの感性を常に持ち続けること、それが私の絵描きとしての原点です」と語る中島潔の絵の中には、小さい命の輝きがいつも風のように流れています。

風の画家と呼ばれてみれば、思い出す絵があると作家本人が語っています。28歳で単身あてもなくパリへと渡った時に、オルセー美術館で魅入られた一枚の名画がありました。それは、印象派の巨匠クロード・モネの「日傘を持つ女（左向き）」でした。「女性の背後から風が吹いていた。すべてを受け止める風。この絵に流れているような風を描きたい、そう思った。」
「風」はずっと大切にしているものであり、中島潔の中にずっと吹き続けているのかもしれません。

近年、新しいテーマの女性に取り組んでいます。凛とした女性が見せる一瞬の姿を大胆な構図でとらえ鮮やかに描く作品は、令和という新しい時代の風に吹かれて生きる女性のしなやかさと煌めきを映し出しています。

1943年　満州生まれ
1944年　両親の故郷、佐賀へ戻る
1961年　佐賀県立唐津西高校卒業後上京、独学で絵の勉強を続ける
1964年　広告会社に就職　、 アートディレクターとして数々の賞を受賞
1971年　フランス・パリの美術学校で学ぶ。 　
1982年 　NHK「みんなのうた」のイメージ画を手がける、 同年、東京小田急百貨店で初の個展開催
1987年　ボローニャ国際児童図書展で絵本「木霊みょうと」がグラフィック賞受賞
1989年　ワシントン州百年祭を記念して 兵庫県よりワシントン州に「かのひと、はるか」を寄贈
1990年　北京の故宮にて海外展開催
1998年　画業30年記念で「源氏物語54帖」完成
1999年　NHKにて「郷愁・中島潔の世界」(春夏秋冬四部作)を制作・放送
2001年 　パリ・三越エトワール美術館にて海外展開催
2003年　東京メトロ半蔵門線開通を記念して、新四駅にアートレリーフを制作
2007年　東京・上野の森美術館にて「絵筆でつづる四半世紀展」開催
2010年　京都・清水寺成就院に「生命の無常と輝き」襖絵46枚を奉納
2011年　「清水寺成就院奉納襖絵─生命の無常と輝き展─」開催
2015年　4月、京都・六道珍皇寺にて「中島潔　地獄心音図完成特別公開」展開催

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※買取価格は制作年、作風、状態などにより相場が変動いたしますので、
掲載されている金額は、ある程度の目安としてご参考にしていただけますと幸いでございます。

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