児玉幸雄「ヴェニスの運河」を買取いたしました。お父様が大切になさっていた作品をお譲りいただき、誠にありがとうございました。児玉幸雄の作品の中でも、ヨーロッパの広場や街並み、市場に集う人々の賑わいや生活などを描いている図柄は人気が高いです。大きさや図柄によっても異なりますが、若い頃の作品よりも、人々で賑わうパリの風景や朝市を描いた晩年の油絵は人気もあり、査定額も高くなる傾向となっております。

1916年、児玉幸雄は大阪府大阪市の薬品店を営む商家に生まれます。絵画コレクターでもあった父の影響を受け、幼少期から絵画を身近に感じていました。中学生の頃から絵を描いていましたが、関西学院大学経済学部に進学、美術部弦月会に参加し田村孝之介に師事します。

1936年の全関西洋画展で初入選し、翌年の第24回二科展で「赤い背景の人形」が初入選を果たします。その後、二科展では連年入選します。初期の頃は、婦人像 や人形をモチーフにして油絵を多く描いています。

1939年に関西学院大学卒業後、現役兵として入隊をします。翌年の紀元2600年奉祝展では二科会から推薦されて「戦線風景」を出品します。戦時中は中国で7年の兵役を果たし、1946年の終戦により帰還、召集解除となりました。

戦後は熊谷守一や宮本三郎らと共にニ紀会の創立に参加し、以後は主にニ紀展で作品を発表していきます。 1950年の第4回二紀展に「家族」「夏の庭」を出品して同人賞を、27年第6回同展に「黒い上衣」「画室の親子」「働く家族」を出品して同人優賞を受賞し、ニ紀会委員に就任しました。

1956年東京に転居し、41歳で初めて渡欧します。 パリの下町に1年間滞在し、異国の人々の活気や情景に感銘を受け、ヨーロッパ庶民の生の姿を主題にして描きました。婦人像や人形を多く描いていた児玉幸雄が、風景画家へ転身するきっかけとなったのがこの時の渡欧でした。以降は欧州の広場や市場の風景を描くようになっていきます。

その後、1965年に欧州、題材を求めアメリカやメキシコを巡遊し、精力的に制作を続けていきます。1969年に渡欧、1971年以降は1991年まで毎年渡欧しました。1976年に病を得て二紀会を退会、その後は個展を中心に作品を発表し、1980年には「パリーの広場」を文化庁が買上げました。また石版画集「フランスの四季」や、水彩画集「ヨーロッパを描く」を出版するなど、晩年も活躍を続けました。1992年2月20日、心不全のため東京都港区の前田外科病院で死去、享年75でした。

児玉幸雄は、パリの街角や市場など賑やかな人々の様子や、庶民的な親しみのある情感溢れる生活の風景などを力強い油彩のタッチで描き出し、二紀会をはじめ画廊等で個展を開催して人気を博しました。第1次世界大戦中に生まれ、大学卒業後には入隊も経験していますが、生み出す作品にはネガティブな感情や暗さは感じられません。ヨーロッパ独特の石造りの建物の重厚感までしっかり描かれ、明るく温かい空気感の作品が多く、見た人を優しい気持ちにしてくれます。

多くの日本人画家をはじめ世界中の画家が描いたパリは、児玉幸雄が描き続けた題材の一つでしたが、ある文章の中で「いきいきと雑踏する広場の朝市に偶然ぶつかると、思わず快哉を叫びたくなる程の衝動に駆られます」と語っていました。人気の名所や旧跡ではなく、庶民の活気あふれる朝市や生活する人々に対して、飽くことのない興味と探究心がそこにはあったのかもしれません。

【児玉幸雄　略歴】

1916年　大阪市の薬品店に生れる
1934年　関西学院大学経済学部に進学
1936年　大学在学中関西美術展入選、田村孝之介に師事
1937年　二科展に「赤い背景の人形」初入選
1938年　関西美術展全関賞受賞
1939年　大学卒業後、入隊
1946年　7年の中国での兵役後復員
1947年　大阪市展市長賞受賞、二紀会創立に参加
1950年　二紀会同人優賞受賞
1952年　二紀会委員に就任
1956年　東京に転居
1957年　初の渡欧
1959年　日本橋三越　滞欧作品展開催
1964年　アメリカ、メキシコを旅する　
1986年　ニ紀会退会
1991年　銀座にて「現代作家デッサンシリーズ　児玉幸雄」展開催
1992年　東京にて逝去、享年75歳

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