刑部人の油彩画を買取いたしました。刑部人（おさかべ じん）は、明治末から昭和にかけて活躍した洋画家です。

独自の写実表現で四季折々の日本の風景を描き出し、作品からは土地の空気や光がそのまま息づいているような、静かで確かな感動があります。

刑部人は、1906年に栃木県下都賀郡家中村（現：栃木市都賀町家中）に生まれました。幼少期に父の転勤に伴って上京し、絵画への関心を深めていきます。

東京府立一中時代には高見順や長沼弘毅と同級生で、在学中に高見らと廻覧雑誌を創刊するなど文学的な交流も盛んに行いました。

1922年、川端画学校に通い始め、1924年には東京美術学校西洋画科に進学します。和田英作に師事し、在学中の1928年には帝展に初入選、翌年に卒業後も帝展、新文展への出品を続け、1943年には新文展で無鑑査に、戦後は1946年・1947年と2年連続で日展特選に選ばれるなど、順調な歩みを見せました。

しかし画壇の表舞台で注目される一方、当時ヨーロッパから流入していたフォーヴィスムやキュビズムといった新しい芸術潮流に心を揺さぶられ、一時的なスランプを経験します。

自身の方向性に悩みながらも、時流に流されず、自分の眼と心で見た自然を描きたいという信念に立ち戻り、写実主義へと回帰しました。

戦後は洋画の大家・金山平三と親交を深め、数々の写生旅行に同行しました。自然の微妙な光や空気の移ろいを、ペインティングナイフを用いた躍動感ある筆致で表現するという、独自のスタイルを築いていきます。

刑部がアトリエを構えた東京・下落合は「落合文化村」と呼ばれ、多くの作家や芸術家が暮らしていました。

1941年には隣地に作家・林芙美子夫妻が居を構え、夫・緑敏が育てた薔薇を刑部は好んで描きました。梅原龍三郎、中川一政、朝井閑右衛門ら名だたる画家たちも、この緑敏の薔薇をモチーフにしています。

刑部が特に愛した題材が「渓流」でした。ほとばしる水音や木洩れ日のきらめきまで伝わってくるようなその表現は、まさに風景と一体化した画家のまなざしそのもののようです。

また、薔薇などの静物画にも力を入れ、自然への敬意と愛情が静かに宿る作品を数多く残しています。

1958年からは新世紀美術展に参加し、晩年まで日展をはじめとする公募展・個展で活動を継続、特に日本橋三越での毎年の個展は好評を博し、政財界にも多くの愛好者を持ちました。

1978年、腎不全のため東京・飯田橋の日本医科大学病院で亡くなりました。刑部人は流行に流されることなく、自らの美意識に忠実に生きた画家でした。

その作品には刻一刻と変わる日本の自然と、画家の内面が響き合うような静かな情熱があり、今なお多くの人々の心を打ち続ける理由はそこにあるのかもしれません。

北岡技芳堂では、刑部人の油彩画の査定・買取を行っております。ご不明な点などございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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【刑部人 略歴】

1906年　
栃木県下都賀郡家中村大字家中に生まれる


1915年　
9歳頃から川端龍子・鶴田吾郎の主幹する「スケッチ倶楽部」の通信講座を受ける


1918年　
父の東京転任にともない12歳で上京
この頃から大森新井宿に川端龍子を訪ねるようになる


1922年　
16歳頃から日本画家の川端玉章が設立し藤島武二などが主任を務めた本郷の川端画学校に通う


1924年　
東京美術学校西洋画科（現在の東京藝術大学美術学部油絵科）に入学


1928年　
第9回帝展において「友人の肖像」が初入選となる


1931年　
1年後輩だった画家・島津一郎の妹鈴子と結婚し東京都豊多摩郡落合町大字下落合（現在の新宿区中井）にアトリエを構える


1940年　
芝浦の東京高等工芸学校の助教授となる


1943年　
新文展無鑑査となる


1946年　
第1回日展（日本美術展覧会）に「冬の軽井沢」を出品し特選
金山平三と山形県大石田への写生旅行に同行


1948年　
第4回日展に「渓流」を出品し特選


1951年　
日本橋三越にて第1回個展を開催


1958年　
新世紀美術協会に参加
第3回新世紀美術展に「渓流（奥入瀬）」を出品


1967年　
日展審査員に選ばれる


1976年　
70歳を記念し日動画廊で「刑部人記念展」（銀座 名古屋）を開催
『刑部人画集』（日動出版部）を刊行


1978年　
腎不全のため死去 享年71
勲4等瑞宝章を受ける

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※買取価格は制作年、作風、状態などにより相場が変動いたしますので、
掲載されている金額は、ある程度の目安としてご参考にしていただけますと幸いでございます。

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