今回買取をさせていただいたのは、北九州市出身の洋画家、平野遼(1927-1992)の作品です。長年大切になさっていた作品をお譲りいただき、誠にありがとうございました。

平野遼は、現代の苦悩を卓抜な筆力であらわしました。人間や社会の在りようを見つめ、ひたむきに描き続ける姿から、「魂の画家」と評されます。底知れぬ闇というのでしょうか。光と闇、生と死といった対峙する世界の狭間に浮遊するような緊張感があり、この独特の空気に引きずり込まれるような思いがいたします。
小学校3年生の頃から技法書等により絵を独学する一方、通信教育で挿絵を学びました。母親を3歳で、父親を13歳でなくし、幼い頃から徴用工として働いていました。家庭環境も良かったとは言い難いもので、子供らしい遊びをしたことがなかったそうです。
戦後の混乱期に独学で画家として歩み始め、絵画放浪と呼ばれる生活をしていました。このような背景から画家平野遼は生またと考えますと複雑な気もいたしますが、困窮と孤独のなかで、独特の筆致による内面世界の表現を確立しました。

1951年に第15回自由美術家協会展に「詩人」で初入選し、以後同展に出品を続けます。1953年第17回同展に「白い家」「兄弟」を出品して優秀作家賞を受賞し、この頃より糸園和三郎、小山田二郎、瀧口修造らの知遇を得ます。1964年に麻生三郎、糸園和三郎、森芳雄らとともに自由美術家協会を退会、主体美術協会を設立しますが、1975年に無所属とります。
1978年にヨーロッパへ旅し、スイス、イタリア、オランダ、東欧等を訪ねます。7月には中央アジア、9月には、東独、チェコ、オーストリアへ旅行。その後も、トルコ、ギリシア、スペイン等へ、晩年は海外をたびたび訪れました。

画業の始めから一貫して関心は人間、特に自己の内面にありました。最初期には写実的具象画も描きましたが、昭和30年代に抽象的作風へと移行、晩年にはデフォルメされた人体像による象徴的作風へと展開していきます。時代に流されることなく、真摯に人間や社会、そして自分自身と向き合い、その本質を捉えるべく凝視し続けました。生きていく中で苦悩したり不安に襲われたり、時に矛盾を抱えて生きる人間の普遍的な心の在りようが、重厚な色彩と線とによって表現され、それらを作品から感じる取ることができます。

【平野遼　略歴】
1927 年　大分佐賀関町生まれ
1940年　徴兵令よにより若松造船所で働く
1945年　終戦・除隊後、住居を転々としつつ米軍のポスターを描き、似顔絵描きをする
1949年　上京、宮脇繁と出会う、第一三回新制作展にて蝋画『やまびこ』初入選
1950年　秋、北九州に戻る、小倉ＰＸのウインドウ装飾画として就職、水野清子と知り合う
1951年　再び上京、川崎覚太郎と出会う、自由美術家協会展初入選
1953年　自由美術家協会展で優秀作家賞
1954年　水野清子と結婚
1957年　若松「ドガ」画廊で初個展、以後国内各地で個展
1958年　自由美術家協会会員となる
1964年　自由美術家協会を退会し、主体美術協会設立（’75退会）
森芳雄氏、大野五郎氏らと主体美術協会を結成し、創立会員となる
1974年　初のヨーロッパ旅行を経験する
1986年　池田二十世紀美術館、62年、北九州市立美術館で「平野遼の世界展」
1987年　西日本文化賞受賞
1990年　下関市立美術館で「平野遼展」
1992 年　心不全のために11月24日逝去、享年65歳

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※買取価格は制作年、作風、状態などにより相場が変動いたしますので、掲載されている金額は、ある程度の目安としてご参考にしていただけますと幸いでございます。

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